まさかこの言い間違いが伏線になっているとは…。脚本の巧みさに驚きを禁じ得ない視聴者も多かったようだ。
6月30日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第77回では、ヒロインのアキ(能年玲奈)が海女の先輩である安部ちゃん(片桐はいり)に東京・上野で再会。「安部ちゃんはずっとオラの落ち武者として、海の中でこっそりウニを渡してくれていた恩人なのです」とナレーションで語られる場面があった。
ナレーションにも関わらず、安部ちゃんは「影武者だけどね…」と反応。「落ち武者と影武者は、全然違うからね」と念を押していた。この伏線回収に多くの視聴者が感心していたのである。
「落ち武者という単語は、4月26日放送の第21回でアキの口から出てきたもの。新米海女のアキはまだ自分でウニを獲れず、海の中でウニを手渡してくれた安部ちゃんのことを『まるで落ち武者だべ!』とアキが気遣った場面でした。その時は単なる言い間違いのギャグだと思われていたものが、まさか2カ月後の伏線となっていたとは、脚本の巧みさに感心する視聴者も多かったのです」(テレビ誌ライター)
物語の舞台は北三陸から東京・上野へと移り変わり、アキも新人海女から新人アイドルへとジョブチェンジ。一年の時を経てアキを巡る環境は大きく変わっていた。
そのなかで「落ち武者」発言が示す意味もまた、変わってきたという。かつては伏線の回収対象だった言葉だったが、今度は伏線そのものへと変容したというのだ。
「アキは前々回の第75回にて、アメ横女学園でセンターを務める有馬めぐ(足立梨花)のシャドウ(代役)に指名されました。つまりアキ自身がめぐの影武者になったわけです」(前出・テレビ誌ライター)
かつては自分が影武者を持つ存在だったアキが、今度は自分自身が他人の影武者へと変わったわけだ。
自身の影武者を務めてくれた安部ちゃんは、その役目を何ら後ろめたいものとは感じていなかった。同様にアキもいま、めぐのシャドウを務めることに後ろめたさどころか、むしろ喜びを感じているはず。立場が変わったことでアキは、影武者の何たるかを体感することができたであろう。
しかもこの役割交代にはもうひとつ、伏線が隠されている可能性があるというのだ。それは影武者ではなく、落ち武者という要素にあるという。
「新人アイドルのアキにとっては今後、自らが落ち武者になる可能性があり得ます。母親の春子(小泉今日子/有村架純)はアイドルを目指して上京するも、夢破れていました。そして離婚し、娘を連れて故郷の北三陸に戻った姿は、落ち武者になぞらえることもできそう。そんな母親と同様にアキも、落ち武者になるかもしれないわけです」(前出・テレビ誌ライター)
果たしてアキはアイドルとして成功するのか、それとも母親と同様の道をたどるのか。本放送を未見の視聴者は、今回の影武者&落ち武者のやり取りに、アキの未来がどっちに転がるのかと、期待と不安を抱くことになったことだろう。