なぜ制作陣はヒロインをろくでなしに描こうとするのか、理解できないと憤る視聴者も多かったようだ。
2月28日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第104回では、ヒロインのスズ子(趣里)が村山トミ(小雪)の葬儀に出席。亡き恋人・愛助(水上恒司)の忘れ形見である一人娘の愛子を、祖母にあたるトミの遺影に紹介していた。
幼い愛子にしてみれば、父親の顔を知らずに育ったばかりか、祖母の死に目にも会えなかったことになる。トミが社長を務めていた村山興業の関係者は「社長も愛子ちゃんのことは気にかけていらっしゃいました」と語っていたが、どうやらスズ子のほうはそうでもなかったようだ。
スズ子は「顔見せに来なあかんかったのに」と語りつつ、トミの早すぎる死を悼んでいた様子。しかし恋人の愛助が亡くなったのは3年も前のことであり、そこから愛子をトミに会わせようとしなかったのは当のスズ子のほうではないか。
「芸能界を代表するスターとして多忙だったということかもしれませんが、作中でのスズ子は昼間っから自宅にいるなどさほど忙しい様子もなく、トミの思い出を語る場面など皆無。これでは亡き恋人の年老いた母親を労わる気持ちなど、微塵も伝わってこないというものです」(テレビ誌ライター)
果たして史実はどうだったのか。スズ子のモデルである笠置シヅ子は、出産からわずか3カ月後に娘を伴い、先立たれた恋人・吉本穎右氏の母親で、吉本興業社長である吉本せいのもとを訪れていた。
せいは笠置に対し、吉本家の直系となる孫を引き取りたいと提案。しかし笠置と穎右氏が結婚していなかったことから養子に出すには裁判が必要となることや、自身がもらい子であることから娘は自分の手で育てたいという笠置の希望もあり、そのまま娘と共に帰京していたのである。
「本作でも恋人に先立たれたスズ子にしてみれば、娘の愛子を連れて村山家に挨拶に行くのが常識というものでしょう。ところがスズ子はトミに、孫の顔さえ見せなかったわけです。スズ子自身は『こないに早う会われへんようになろうとは思えへんかったから』と言い訳していましたが、本来なら自分以外で唯一の肉親にあたる祖母・トミのところにいち早く愛子を連れて行くのが人情というもの。正直なところ本作でのスズ子は、あまりにも薄情な振る舞いを見せていると断罪せざるを得ません」(前出・テレビ誌ライター)
息子に先立たれてしまったトミに、孫の顔すら見せないスズ子はもはやろくでなしと言うべきか。制作陣は、祖母の遺影に手を合わせる愛子の姿を感動的に描いたつもりだったかもしれないが、視聴者が「非常識で非情なスズ子」という印象を抱くことに想いが及ばなかったのであれば、そのようがよっぽどの驚きかもしれない。