他人との関りがほとんど描かれない物語には、疑問の声が続出しているようだ。
3月27日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第124回では、ヒロインの福来スズ子(趣里)が歌手引退記者会見を開催。パフォーマンスの衰えが歌手を辞める大きな理由であることを明かした。
スズ子のモデルである“ブギの女王”こと笠置シヅ子もやはり、自身の衰えを理由に歌手を引退し、女優へと転身していた。笠置は引退会見を行わず、引退の理由についても後年になってから明かしていたが、ドラマでは本人自ら言及するという演出も理解できるところだろう。
ただ本作では当のスズ子を取り巻く環境が、笠置のそれとは大きく違っている。その違いに違和感を抱く視聴者も少なくないというのである。
「会見を終えたスズ子は自宅にて、いつものようにマネージャーのタケシ(三浦獠太)や家政婦の大野(木野花)らと食卓を囲んでいました。ここでスズ子は『みなさんはワテの宝物です』『家族、血の繫がりなんか関係ないねん』とつぶやいていましたが、なぜここでその言葉が出てくるのか、どうにもピンとこなかったですね」(テレビ誌ライター)
スズ子は自身が養女であることを知っているがゆえに、実の娘である愛子(このか)を溺愛している。その愛子もいる食卓で「血の繫がりなんて関係ない」と言い切るのはいかにも不自然ではないだろうか。
また、歌手・スズ子にとって最も重要な存在の一人である作曲家の羽鳥善一(草彅剛)は、スズ子の歌手引退に対して強硬に反対していた。
作中では羽鳥が歌手引退に理解を示す様子も描かれていたものの、その想いはまだスズ子本人に伝わっていないはず。つまりスズ子は現在進行形で羽鳥に対して不義理を働いているわけであり、その状況で「みなさんはワテの宝物です」と涙ながらに語るのはいかがなものだろうか。
「それらの描写に加えて納得がいかないのは、笠置シヅ子の華麗な交流関係がほとんど描かれていないこと。東大総長の南原繁が会長を務める後援会には、作家の吉川英二や林芙美子、女優の田中絹代や高峰秀子らの名前が並んでいました。三島由紀夫や阪神タイガースの藤村富美男も熱烈なファンでしたし、笠置はしょっちゅうそれらの著名人と交流していたのですが、本作でのスズ子は毎日、明るいうちに帰宅してばかりです」(前出・テレビ誌ライター)
今回はスズ子の歌手引退を知った後輩の秋山(伊原六花)が、大阪から会いに来る様子も描かれた。しかし秋山にしても身内同然の存在であり、制作陣にはスズ子の華麗すぎる交友関係を描く気はさらさらないようだ。
年末の歌合戦番組で大トリを担うような大物歌手が他の著名人とはほとんど交流せず、自宅でのちんまりとした食卓をありがたがるという描写は、スズ子の何を描こうとしているのか。最終週に至っても福来スズ子という大物歌手をどう位置付けているのか、視聴者は腑に落ちないところではないだろうか。