今年下半期、大きな話題をさらった作品に、ゆりやんレトリィバァが“伝説の悪役女子プロレスラー”ダンプ松本を演じたNetflixシリーズ「極悪女王」が挙げられる。
ゆりやんは往時のダンプに近づくために、およそ40kgも増量。敵対するクラッシュ・ギャルズの長与千種を唐田えりか、ライオネス飛鳥を剛力彩芽が演じたが、ともに10kg以上もウェイトアップした。
キャストたちの女優魂もさることながら、1980年代に社会現象を巻き起こした女子プロレスブームを完全再現したことも人気の理由。有名芸能人たちがこぞってSNSで絶賛し、同じNetflixの「地面師たち」と並んで世界190を超える国と地域で配信された。
ダンプは、63歳になった今なお現役。88年に所属していた全日本女子プロレス興業(全女)を辞めて引退したが、同団体の創立35周年記念大会となった2003年の横浜アリーナ大会で復帰。以降、フリーランスで現在もリングに上がっている。“代表作”は、人気絶頂期の長与を丸坊主にした敗者髪切りデスマッチ(85年8月28日、大阪城ホール)。当日の驚愕な数字を、古参のプロレスライターが明かす。
「怒った浪速のファン600人が極悪のバスを囲んで揺らして、立ち行かなくなりました。宿泊先を急きょ変更して、ビジネスホテルからグレードアップされたそう。ちなみに、この1試合でダンプが手に入れたギャラは300万円!ですが、負けた千種さんのほうが高かった」
ダンプの女子プロレス人生は、絵に描いたようなジェットコースター。クラッシュ・ギャルズと同じ昭和55(1980)年デビュー組だが、プロテストは3度も落選。車の運転免許証を取得していたため、営業部への転属を命じられて宣伝カーを運転していた。当時の新人選手は月給5万円だったが、ドライバーは7万円。ダンプにとっては、屈辱的なギャラアップだった。
「全女人気のピークは、髪切りデスマッチがあった85年。クラッシュを超える多忙タレントとなったダンプさんは、ファイトマネーに加えてバラエティ番組やドラマ、CM、雑誌、レコードほかで、24歳で年収6000万円に達しています。最高月収は580万円。ですが、毎晩後輩を連れて飲み食いして、散財癖は加速。ひと晩で30万円使ったことも」(前出・プロレスライター)
初めて買った愛車は、350万円のフェアレディZ。84年末に、キャッシュで買った。しかし、全女の事務所に乗っていくと、悪質なファンに10円玉で傷つけられた。バイクで行くと、タイヤをパンクさせられた。自転車で行くと、サドルを盗まれた。最終手段でタクシーを捕まえようとしても、「悪役は乗せられない」とドライバーから拒否された。
引退を表明した88年には、極悪だけによる初のサイン会を実施。しかし、開催場所となったデパートの屋上に3000人ほどが殺到して、急きょ中止に。「ダンプ、死ね!」とひとこと言いたいファンが押し寄せたようだ。
昭和の極悪酔狂期。作品で描かれた熱狂は、ガチだった。
(北村ともこ)