もし本当に家出をしていたら…そう心配した視聴者も少なくなかったことだろう。
6月12日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第61回では、アイドル志望のユイ（橋本愛）を東京でのオーディションに連れ出そうとしていた“ミズタク”こと水口（松田龍平）の目論見が発覚。北三陸の人々に東京行きを阻止される場面が描かれた。
ひっそりと旅立とうとしていた二人を引き留めることに成功した鍵は、春子（小泉今日子）の機転だった。洗濯したアキ（能年玲奈）のズボンから、ボロボロになった水口の名刺を発見。芸能事務所ハートフルの社員であることを見抜き、ユイを東京に連れて行こうとしていると気づいたのである。
水口とユイは、海女カフェに潜伏しているところを発見されることに。逃げ出そうにも三陸海岸を走る国道45号線は漁協によって封鎖されており、二人は袋のネズミとなっていた。そうやって家出に失敗したユイだったが、そのおかげで水口は救われていたというのである。
「ユイの父親・足立功は岩手県の県議会議員という要職にあります。それゆえ娘が誘拐されたとなったら、すぐに岩手県警が動き出すことは確実。警察組織は都道府県ごとの自治体警察ですから、県議会議員は警察に顔が利くのです。実際に水口が未成年者のユイを連れ出していたら、誘拐罪の疑いで逮捕されていたことでしょう」（週刊誌記者）
刑法第224条に規定される「未成年者誘拐」には3月以上7年以下の懲役という重い刑罰が規定されている。しかも同228条には「未遂は、罰する」と定められており、功が警察に通報すれば家出に失敗した状況であっても水口は逮捕されていたはずなのだ。
まだ海女カフェに潜んでいるうちに発見されたからいいものの、これがクルマでユイを連れ出した後だったら、逮捕は免れなかったはず。見方を変えれば春子が水口のことをハートフルの社員だと気づいたことで、水口自身が救われていたのだった。
「水口が逮捕されてしまったら、彼が手掛けているご当地アイドルユニット『GMT47』自体がポシャっていたことは確実。それゆえ今回の家出騒動では、警察を手を煩わせることなく家出を阻止する筋書きが必要でした。振り返ってみれば、アイドルになるかどうかも分からないアキに名刺という物理的な証拠を渡したのは水口の失策でしたが、それ自体が伏線だったのです」（前出・週刊誌記者）
その名刺だが、実際のところ水口がアキに名刺を手渡した場面は描かれていない。あくまで洗濯済みのズボンからクシャクシャになった名刺が発見されただけだ。
もし名刺を渡す場面があれば、視聴者のほうも＜その名刺を誰かに見られたら…＞と警戒していたはず。つまり制作側はあえて、名刺のやり取りを描かなかった可能性が高い。あえて伏線を描かない。そんな手法さえも「あまちゃん」を盛り立てているようだ。
