黒沢あすかと聞いてピンと来ない人でも、放送中の阿部寛主演ドラマ「キャスター」(TBS系)で永野芽郁演じる崎久保華の母親役を演じている役者と言えばおわかりだろうか。華の母親である由美(黒沢)は、華の姉・沙羅が臓器移植を受けられずに亡くなってしまったショックから心が壊れ、華のことを沙羅だと思い続け、施設で療養生活をしている様子が5月25日放送の第7話で描かれた。
華は18年前に進藤(阿部)がモルドバで違法な臓器売買のスクープをしたことで、姉の沙羅が臓器の移植手術を受けられずに命を落としたと思っていたが、事実は違った。
この日の放送の終盤では、華の実父で外科医の川島圭介(山中崇)が「実はあの時、進藤がスクープしなくても、沙羅は助からなかったんだ」と華に告白。さらに「父さんは医師としてわかってたのに、母さん(由美)=黒沢あすか=を傷つけたくなくて、沙羅に移植は無駄だと言えないでいた。そんな時、母さんが単独でモルドバに行ったんだ。18年も黙っててごめんな」と真相を明かしたため、華が言葉を失うというひと幕もあったのだ。
しかし視聴者の中には18年前の真実よりも、黒沢演じる由美が、華のことを「沙羅」と呼ぶシーンに「おや?」と既視感を味わったと声をあげている人がいるようだ。
それもそのはず、黒沢は前クールで放送された比嘉愛未と岩田剛典がW主演する「フォレスト」(テレビ朝日系)でも、岩田演じる純のことを、亡くなった純の兄の名前・涼介と呼び、施設で療養している心が壊れた母親役を演じていたからだ。
ちなみに、放送中の栗山千明主演ドラマ「彼女がそれも愛と呼ぶなら」(日本テレビ系)でも伊藤健太郎演じる複数の恋人との”複数恋愛”をする15歳年上のシングルマザーと恋に落ちる氷雨の母・鈴子を演じているが、こちらでの母親役は心に傷を負ってはいるものの壊れてはいない。
振り返れば黒沢は、木村拓哉を一躍人気者にした1993年放送の石田ひかりと筒井道隆がW主演したドラマ「あすなろ白書」(フジテレビ系)ですでに、保(筒井)を愛しすぎるゆえに他の女性に渡したくないという思いから、保の手の甲にフォークを突き立てるという、猟奇的だけれど悲しみがあふれるシーンを演じ、当時21歳だった黒沢は大反響となった。
「愛しすぎるゆえに」常識から逸脱したり、心が壊れてしまうキャラクターは、黒沢が演じると恐ろしいほどの説得力を帯びる。
それはつまり「ハマリ役」ということだろう。
黒沢には「愛しすぎるゆえに」イカレてしまう女がよく似合うのだ。
どうか「既視感」と言わずに、黒沢が演じるキャラクターの暴力的なほど強い愛を味わってみてほしい。できれば映画「嫌われ松子の一生」や「冷たい熱帯魚」を観てもらえると、黒沢のイカレぶりのすばらしさがダイレクトに伝わってくると思う。
(森山いま)