7月10日放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」第71回では、主人公の万太郎(神木隆之介)が植物誌の図鑑を出版すると妻の寿恵子(浜辺美波)に宣言。そのために夜は印刷所に詰めることになると語り、寿恵子を呆れさせる場面があった。
植物学の世界で名を成し、自分の名前で新種を世界に向けて発表したいとの野望を持つ万太郎。その目的のためなら妻のことを放っておくのもへっちゃらのようだ。そんなわがままぶりにも関わらず、「らんまん」の視聴率は好調に推移しているという。
「第5週までは週平均視聴率が14~15%台に留まっていましたが、万太郎と竹雄が東京で生活しだした第6週からは16%台をキープ。寿恵子が活躍しはじめた第11週からは17%台に載せています。最近の好調ぶりには寿恵子の存在が大きく寄与していそうですが、実は万太郎自身の振る舞いも視聴者に受け入れられているようです」(テレビ誌ライター)
しかし第71回でも浮き彫りになったように、万太郎は植物愛のためなら妻のことさえ放っておくわがままな人物だ。東京大学の田邊教授(要潤)から専属のプラントハンターに誘われた際には、自分の名前で新種を発表したいという欲望を理由に固辞。自分に正直と言えば聞こえはいいが、田辺教授が吐き捨てた「小学校中退のくせに」という言葉に納得する視聴者も少なくない。
研究拠点である東京大学の植物学教室にさえ、行ったり行かなかったりは気分次第。第71回では万太郎を慕う4年生の波多野(前原滉)が「まだいなければ今日は来ないと思います」と説明していた。教授陣や学生とは違い、自分の都合で大学に行くかどうかを決められるという実にお気楽な立場だ。
「視聴率が上向く一方で、万太郎のわがままぶりには腹が立つという視聴者も少なくありません。実家からの仕送りがあるので仕事をする必要がなく、ひたすらに自分のやりたいことだけに注力。田邊教授らに疎まれるのも当然でしょう。ただ万太郎の周りにいる登場人物たちは、彼のことを好ましく思っています。そばにいればきっと、彼を好きになるのかもしれません」(テレビ誌ライター)
たしかに万太郎は基本的に怒ることがなく、いつもニコニコしている好人物でもある。金に困っていない点も、周りの人たちから見れば接しやすい人に映ることだろう。そんな彼の人物像は、やはりわがままぶりが目に余った朝ドラのヒロインとは大違いだというのだ。
2022年前期の朝ドラ「ちむどんどん」では、ヒロイン比嘉暢子(黒島結菜)のわがままぶりに多くの視聴者が眉をひそめていたもの。自分を雇ってくれたイタリア料理店のオーナーに逆切れしたり、せっかく成功した沖縄料理店を放り出して故郷の沖縄にUターンした姿には、唖然とさせられたものだ。
だが暢子と万太郎は「わがまま」という観点では大差がなく、周りを振り回している点でも一緒だ。それなのになぜ、万太郎の振る舞いは視聴者に受け入れられ、高視聴率をキープできているのだろうか。
「万太郎はとにかく植物が好きで、その世界で名を上げたいというシンプルな欲望に忠実です。植物に関しては東大教授も舌を巻くほどの知識と才能を有しており、目的に向かって一心不乱にまい進。だからこそ放っておかれがちな妻の寿恵子も夫のことを応援できるのでしょう。それに対して暢子には『料理が好き』というベースはあるものの、やりたいことがその時々の気分で二転三転し、周りは振り回されてばかり。何が暢子にとって正解なのか、最後まで視聴者には見えていませんでした」(テレビ誌ライター)
やりたいことが明確な人は幸せだというが、万太郎はまさにそのタイプ。自分の生き方に忠実だからこそ、寿恵子も視聴者も彼のことを応援したくなるのだろう。