どうやらすべてはヒロインのために存在しているようだ。
2月27日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第103回では、ヒロインのスズ子(趣里)が怪我で入院した喜劇王のタナケンこと棚橋健二(生瀬勝久)をお見舞い。舞台復帰への執念を見せるタナケンの姿に、大きな感銘を受けていた。だがここでのやり取りに、不満を抱く視聴者も少なくなかったという。
かつて舞台セットの下敷きになり、脚に古傷を負っていたタナケン。今回も舞台で事故に遭ったことで古傷が再発し、もはや以前のように動くことはできなくなったと悔やんでいた。
それでも絶対に復活してみせるとの気迫を見せるタナケンに、スズ子は「負けてられへん」と一念発起。レコード会社から次のヒット作を求められていたことに悩んでいたことを振り切って、作曲家の羽鳥善一(草彅剛)に新曲の依頼に行くのであった。
「タナケンのモデルである喜劇王のエノケンこと榎本健一は、スズ子のモデルである笠置シヅ子と数多くの舞台や映画で共演。本作で描かれている以上に二人は密接な関係を築いていました。そのエノケンも脚の怪我を負い、後には右脚を切断して義足生活を強いられましたが、そのアクシデントを巡る史実と作中のエピソードが大きく異なっており、どうにも気になって仕方がないのです」(芸能ライター)
エノケンが舞台上のアクシデントで右脚を痛め、入院したのは作中と同じ昭和25年のこと。スズ子はタナケンの入院を雑誌で知っていたが、この展開自体があまりにも不自然なのである。
そもそもエノケンと笠置シヅ子は当時、舞台で共演しまくっており、エノケンが足を怪我した時も「ブギウギ百貨店」などで共演していた。それゆえ作中の展開は史実とまったく異なっているのだ。
「スズ子はなぜかいつも暇を持て余していますが、本来なら日本を代表するスタートして舞台や映画、歌で多忙な毎日を送っていたはず。視聴者にとってもスズ子のスターぶりがさっぱり伝わってこない描写には違和感を抱いてしょうがないところでしょう」(前出・芸能ライター)
「ブギウギ」の作中では、タナケンとスズ子の共演は映画一作品のみ。久しぶりに再会を果たしたかと思えば、タナケンの役割はスズ子に「負けてられへん」と一念発起させるための舞台装置に過ぎなかったのである。
こういった「周辺人物の消費」は本作ではもはやおなじみの光景だ。幼少期の親友だったタイ子(藤間爽子)は、スズ子自身も必死に子育てしていることのアピールに使われただけ。ラクチョウのおミネ(田中麗奈)も、スズ子が恋人に先立たれるなど不幸な人生を歩んできたことを再確認するための舞台装置でしかなかった。
この調子でタナケンもあっさり消費されてしまうのか。朝ドラでは以前から、使い捨てられた登場人物の「倉庫行き」に批判的な視聴者も少なくなかったが、どうやら「ブギウギ」ではかなりの人数が倉庫行きの憂き目に遭っているようだ。