Q:2歳になったばかりの息子が、わざとお茶碗を床に落としたり、食べ物を床に落としたり、食べ物で服をベタベタにします。今までは「ダメ」といって片づけていましたが、とうとう手を叩いてしまいました。それからはもう、足や手を強くではありませんが、叩くのが日常的になってしまっています。そんな自分が怖くて罪悪感もありますが、息子を抱きしめてあげることもできず、泣きながら寄ってきてもわざと突き放してしまうこともしばしばです。これも虐待ですか?
A:このご相談者の今の状態は“毎日同じことの繰り返しで、うんざり…”というのが正直な気持ちなのではないでしょうか。
子供は親子のふれあいが満足にできていないと、周囲の気を引こうとしてこのような行動をすることがあります。そのSOSに気づけないほど、自分の気持ちに余裕がなくなっているようですね。
このお子さんの心理としては“もっと抱っこしてほしい。かまってほしくて、こんなことをするしかないんだよ”という気持ちだと思います。
大人なら、「ダメ」の一言で通じることも、世の中に出てきたばかりの小さな子供には、「ダメ」の一言では何が“ダメ”なのかがかわかりません。言葉を尽くして説明し、理解をしてもらうのは大変ですが、それを省いていては、子供には何も伝わりません。
ある程度の年齢になれば、床にものを落とすのはいけないこと、食べ物を粗末にしてはいけないことを親から教えられて学びます。けれども、まだ世のなかに出てきて2年しか経っていない子供には「ダメ」の理由がわかりません。
また、小さな子供は、物を触った感触、落とした音、落ちる様子を好奇心いっぱいで実験している時期でもあります。
ですから、子供が汚す端から片づけるのではなく、しばらく放っておいてみてください。投げるものがなくなるまで、好きにさせたらどうなるでしょうか。
投げるものが無くなったと泣くのか?あきらめて他のことに興味を示すのか?子供がどのような行動に出るのか、お母さんも実験だと思って観察してみましょう。今まで気づかなかった子供の意外な性格を発見できるかもしれません。
そして今回の質問のように、抱きしめることもできないほど育児ストレスが溜まったときには、子供が生まれてきた瞬間を思い出してみましょう。生まれてすぐの泣き声を聞いて「元気に生まれてくれてよかった」と感謝したはずです。
家事をしなくては、育児をがんばらねば、と自分を追い込みそうになったら、幸せでいっぱいだったときの思い出に、思う存分ひたってください。子供を産んで嬉しかった、幸せだった気持ちを思い出せれば大丈夫。徐々にでも気持ちが前向きになってくるはずです。
ただし、現状のままではこの子にとっては深刻です。しばらくは、少し子供と離れる時間を作ってください。ご自身の気持ちを身近な誰かに正直に打ち明けて、助けを求めましょう。夫がだめなら双方の両親に。それが無理なら友人、知人。経済的に許されるなら、時間で預かってくれるベビールームなど、使える施設や行政サービスを最大限に利用することを検討してみてください。
(監修・ストレスケア日比谷クリニック 酒井和夫院長/取材・文 李京榮)