神木隆之介が1人2役を演じる現代を生きる玲央と、端島で外勤として働いていた鉄平が、実はまったく赤の他人で実際は「似ていなかった」と、最終回で活気があった当時の端島の8ミリに映る鉄平を観ながら、いづみ=朝子(宮本信子)によって語られた「海に眠るダイヤモンド」(TBS系)。
もう1つオマケに「賢将(清水尋也)と身体バランスがよく似ている」酒向芳演じる澤田が、斎藤工演じる進平と池田エライザ演じるリナの息子である誠(小林昌樹)だと本人の口から語られたのだから、これは裏切られたと感じても仕方がないだろう。
ここまで鮮やかに裏切られると爽快感と感動しかない。バタフライエフェクトではないが、誰が誰の人生に影響を与えるかわからないし、影響を受けるかわからない。この世界のどこかにあるものすべてが、今の自分と関わっていて、今の自分がいるから、今この世界があると思えるこの感覚は、野木亜紀子氏が描く脚本世界の特徴とも言えるだろう。
会ったこともない鉄平に突き動かされた玲央は、2018年には夜の接客を伴う飲食店の従業員だったが、2024年には金髪を黒髪にチェンジしてツアーガイドとなった。大ラスで青空に映える飛行機の腹を見ながら大きなトランクを引く玲央は、鉄平とはまったくの別人に見えた。
これまで玲央は、鉄平と何らかの血縁があると思われていたが、「アンナチュラル」(TBS系)に登場する竜星涼演じる葬儀屋・木林南雲が「ただの葬儀屋」であったのと同じく、「ただの人生をあきらめていた若者」だったから、今後の野木作品を考察する時には注意したい。また野木氏に感動するほど裏切られたと騒ぐのはちょっと口惜しいから。
鉄平が誠とリナだけでなく、朝子も端島も守るために、家族を作らずたった一人で一生を送り、一面にコスモスが咲く庭から、真正面の端島を見つめる晩年を過ごしていたかと思うと、切なくて胸が苦しくなる。
朝子(杉咲花)が鉄平と会う時は、必ず水色の服やアクセサリーを身に着けていたことに気付いていたから、プロポーズする時に渡そうとしていたお手製のギヤマンも、きれいな水色にしたのだろう。立ち入り禁止になる前の端島に一人で行って、朽ちかけた集合住宅の「所帯をも持つ人」が入居できる上階に、朝子と結婚して住むはずだったその場所に、渡せなかったお手製ギヤマンを置いてきた鉄平の愛情は、2024年に生きている朝子の心の中でダイヤモンドになっていた。
玲央と久しぶりに会う朝子が、きれいな水色のストールをして現れた時、きらきらと輝く記憶というものに色があるなら、それは水色なのかもしれないとさえ思った。想像の世界で鉄平が朝子にプロポーズできてよかった。鉄平は視聴者の心の中に生まれたばかりのダイヤモンドを見つけにきてくれるかな。
(森山いま)