人間は、目の前の現象を、“いいよう”にも、“悪いよう”にも、自分の思い通りに作りかえてしまう生き物。
■目が見たものに、脳は“意味づけ”をする
上の写真を見てください。ちょっとユニークな顔、ではなくて…正解は、プラタナスの樹皮にあらわれた模様です。私たちは時として、壁のシミが幽霊に見えたり、記念写真のバックの林の中に、たくさんの背後霊の姿(?)が見えたりします。目が見たものに脳は、「(顔に限らず)本来意味のないものにも意味をみつける」 のです。
この現象は「パレイドリア効果」と呼ばれています。私たちはごく日常的に誰もがこれを経験しており、たとえば「満月」。日本ではウサギが餅つきをしています。ところが、ヨーロッパの人たちにはカニが見えるそうで、ワニやロバに見えるという地域もあります。
■目(脳)は見たくないものも見てしまう
この「パレイドリア効果」、人によって見え方が違うというところが問題なのです。「お月様にはウサギがいる」「いや、カニだよ」という程度なら何も罪はないのですが、人によっては往々にして、恐怖や不安といった不幸の要素を見てしまうことがあります。
■“雨顔”はゾンビ
「パレイドリア効果」は、不安、死、絶望といったゾンビ・イメージも、安心、幸せ、夢といったパラダイス・イメージも、目を通してその映像から受けるイメージとして作り出します。しかも、私たちは「ネガティブな情報に注意を向けがちで、記憶にも残りやすいという心理的な傾向(バイアス)を持っている」のです。そして“その時の顔”は決まって“雨顔”です。
“雨顔”の恐怖や不安は、「パレイドリア効果」によって、ますます増幅されていきます。“雨顔”で、見るものすべてに「ワルイこと」の“意味づけ”をして生きていると、「ワルイことばかりがおきる人生」 になってしまいます。
■“晴顔”はパラダイス
もうおわかりですね。「“晴顔”でパラダイス・イメージを見て生きるという習慣をつければいい」のです。「目で見たものを“いい”と感じることで“晴顔”を呼びおこす」、そして「脳にパラダイス・イメージを“意味づけさせる”」というわけです。こうして、“晴顔”の「パレイドリア効果」を味方につけ、背中を押してもらうのです。
■“晴顔”で、「イイとこさがし」
私の携帯には、たくさんの夕焼けの写真があります。夕焼けは人によって受け止め方が違います。同じ真っ赤な夕焼けが、きれいな感じや怖い感じ、明るい感じや不吉な感じなど、人によって、あるいはその時の精神状態によって、まったく違ったものに映ってしまいます。…が、私は、どんな夕焼けでも「すばらしい!!」と“晴顔的”に感じるように努力しています。そして写真に撮るのです。写真として残すことに意味があるのではなく、「美しいと感じて、写真を撮る」 ことに大きな意味があるのです。
■“審美眼”という目のパワー
私は「いけばな」の「池坊(いけのぼう)」を20年以上続けています。花をいける時、その花の「どこを正面にするか」をまず決めなければいけませんが、木や花の一本を手に取って、考えてしまいます。「どこが正面なんだろう?」と。そんな時のヒケツというか、便利な方法があります。まず、木や花を目の前に垂直に立てた形で持ちます。そして花や木を、指で軸を回すようにして少しずつ回してみます。そうすると…「あっ、ここが正面だ!!」という瞬間があるのです。不思議なことに必ずあるのです。いつか機会があればやってみるといいと思います。
「正面をさがそう」 と思った瞬間、目は脳と結びついて、一番美しいものを“見つけ出す”のです。目には、そんな不思議なパワーがあるのです。
顔と健康、次回は「耳」が引き起こす“超発想”です。
●プロフィール
なかむら・かつひろ1951年山口県岩国市生まれ。早稲田大学卒業後にNHK入局。「サンデースポーツ」「歴史誕生」「報道」「オリンピック」等のキャスターを務め、1996年から「ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)ほか、テレビ東京などでワイドショーを担当。日本作家クラブ会員。著書に「生き方はスポーツマインド」(角川書店)、「山田久志 優しさの配球、強さの制球」(海拓舎)、「逆境をチャンスにする発想と技術」(プレジデント社)、「言葉力による逆発想のススメ」(大学研究双書)などがある。講演 「“顔”とアナウンサー」「アナウンサーのストップ・ウォッチ“歴史館”」「ウィンウィン“説得術”」