市原隼人はこのまま「自分スタイル」を究めれば、田村正和さんに追いつき追い越せるかもしれない「オモシロ域」へ
放送中の「もしがく」こと菅田将暉主演ドラマ「もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう」(フジテレビ系)で、市原隼人は役者として新たな階段を上り始めたように思う。
井上咲楽と共演している放送中の「ほけんの窓口」のテレビCMを見ていても思うのだが、かっこいい「自分スタイル」を貫いてきた結果、それが頂点を越えてグルリと逆転し「オモシロ域」に達したように感じられてならない。
「面白い」ではなく、あくまでも「オモシロ」。
かっこよさとエモさと軽さが同居するシリアスが度を越えると「オモシロ」になるこの感じは、「古畑任三郎」シリーズ(フジ系)で田村正和さん(2021年に他界)がたどり着いた境地とよく似ているように思うのだ。
11月26日放送の「もしがく」第9話は、市原演じるトニー安藤の魅力が存分に味わえた。
市原自身に通じる「とっぽい感じ」でコワモテのトニーは、WS劇場の用心棒でパトラ姐さん(アンミカ)の情夫でもあった。しかし久部(菅田)と出会い、「芝居」に触れたトニーは、久部版「夏の夜の夢」でライサンダー役を演じ「役者」として開花。誰よりもストイックに芝居に取り組むようになっていた。しかしWS劇場のオーナー・ジェシー才賀(シルビア・グラブ)から胡散臭い取引現場での用心棒を依頼されてしまい、「冬物語」の本番が控えているにもかかわらず、連れ出されてしまう。案の定、トニーは開演までに戻って来られず、共演者やスタッフの苦肉の策でトニーの出番までを引き延ばし、やっと現れた時のトニーのかっこよさと言ったら、脳内に西野カナ「会いたくて 会いたくて」が流れてくるほど震えてしまった。
劇場の舞台入口ドアを開けた時から、トニーは「冬物語」のフロリゼルになっており、第8話でこっそりとだけれど情熱的に練習していた、リカ(二階堂ふみ)が演じるパーディタに対する愛の言葉「花の女神、フローラだ」が聞こえた時には、心の奥にまで届いて温かく広がった。
トニーの役者としての明るい未来が始まるかと思われたが、ジェシー才賀が詐欺食品を取引していたことが警察に突き止められ、取引現場にいたトニーは逮捕される。「もしがく」ではもう、市原の姿を見ることはできないのかもしれない。
役者は、インパクトの強いキャラやよく似合うキャラを演じると、その後はその役名で呼ばれることがよくある。たとえば、放送中のNHK朝ドラ「ばけばけ」で島根県知事を演じている佐野史郎は、1992年放送のドラマ「ずっとあなたが好きだった」(TBS系)で演じた強烈なマザコンキャラの「冬彦さん」という役名を、30年以上たった今でもまだ呼ばれている。
市原は今後「トニー」と呼ばれそうな気がする。
(森山いま)
