8人の剣士たちの戦いの“虚構”パートと、滝沢馬琴と長年の友・葛飾北斎の“実話”を織り混ぜて描く時代劇超大作。
馬琴と北斎の友情を描いた映画といえば「北斎漫画」(1981年)もよかったが、今回はそれを塗り替える勢い。原作は山田風太郎の同名小説。曽利文彦がメガホンを執り、主演の役所広司、内野聖陽ほか助演俳優陣も豪華でうれしい。VFXを駆使した映像も迫力満点だ。
江戸時代、人気作家の馬琴(役所)は、友人の絵師・北斎(内野)に構想中の物語を語り始める。
内容は、処刑された悪女・玉梓(栗山千明)がかけた里見家への呪いを解くために剣士8人が運命に導かれ、伏姫(土屋太鳳)を守るという奇想なお話である。これに驚嘆した北斎は即興の下絵を描くが、正式に馬琴から挿絵を頼まれると断る。要するにヘソ曲がりなのだ。しかし、物語の続きが気になる北斎は馬琴の家に入り浸ることに─。
大作ファンタジーだが見事な「大人のホームドラマ」に仕上げた曽利監督は殊勲甲!静の馬琴、動の北斎は朝から晩まで戯れ言に終始。そこに馬琴の妻・お百(寺島しのぶ)が仏頂面で毎度闖入する。このひと悶着の件が実に面白い。役所との掛け合いを飄々と演じる内野も絶品。名優同士の丁々発止に惚れ惚れする。「女優で観る」私としては、ケバい悪女好みだけに、お姫様(土屋)や馬琴の息子の妻(黒木華)以上に、「里見八犬伝」(1983年)で夏木マリが演じた妖怪・玉梓役の栗山千明が負けじと毒毒しい魅力を発揮し、ブラボー!
「古い革袋に新しい酒を」の粋を感じ取れる中高年世代にお勧め。
(10月25日全国公開、配給・キノフィルムズ)
秋本鉄次(あきもと・てつじ)1952年生まれ、山口県出身。映画評論家。「キネマ旬報」などで映画コラムを連載中。近著に「パツキン一筋50年」(キネマ旬報社)。