そんな勝手なヤツ、追い返してしまえ! そう憤った視聴者も少なくなかったようだ。
6月5日放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」第46回では、植物学雑誌の発刊を目指す主人公の万太郎が印刷会社に押しかけ、弟子入りさせてほしいと懇願。印刷所の工場主・大畑(奥田瑛二)を呆れさせ、視聴者もイライラを爆発させていたようだ。。
万太郎が訪れた大畑印刷所は、明治16年当時の最新鋭技術である「石板印刷」を導入。現代のオフセット印刷にも連なる技術であり、専門の画工が描いたイラストをそのまま印刷で再現できるという優れモノだ。
大畑はかつて彫り師だった岩下(河井克夫)を画工として引き抜いており、岩下は美人画を石板上に精密に再現。大畑は「細けえ線までクッキリと、自慢の画工ですから」と鼻高々だったが、その出来栄えに万太郎はケチをつけていたのである。
「精緻な植物画に自信のある万太郎は、岩下の技術では『お任せすることはできません』と断言。元の図案と表現が変わっているとケチをつけ、『図案を写すことに限界がある』と言い放っていたのです」(テレビ誌ライター)
それゆえ自らが画工の技術を学びたいと懇願し、そのために見習いとしての給金をもらうのではなく、逆に教授料を支払うと申し出た万太郎。その視線はあくまで真っすぐで真摯なものだったが、彼の発言や申し出が非常識であることもまた事実だろう。
万太郎の言い分を現代風に直せば、イラストレーターの腕前に不満があるから、自分に描かせてくれ。そのために御社に弟子入りさせてくれと言っているようなもの。そんな失礼すぎる申し出ながら、万太郎本人は大真面目なのだから、開いた口がふさがらないというものだ。
「そんな万太郎の態度は、あまりにも身勝手なヒロインの態度が猛批判を浴びた前々作の『ちむどんどん』さながら。その身勝手さに加えて、どんなに自分勝手な振る舞いをしでかしても、なぜか応援してくれる人がいるところまで一緒なのです」(前出・テレビ誌ライター)
2作前の「ちむどんどん」ではヒロインの比嘉暢子が見習いで入ったイタリア料理店のオーナーに料理勝負を提案したり、周りの反対を押し切って沖縄料理店を開店するなど好き放題三昧。それでも彼女に求婚する男が現れ、しかも一人目を振って、本命の和彦に自ら告白するという女王様ぶりを見せていたものだ。
この「らんまん」でも、万太郎は造り酒屋の息子という立場を活用し、大概のことは金で解決。植物学を研究したいという思いばかりを振りかざし、周りを振り回しつつも、菓子屋の娘・寿恵子(浜辺美波)とは相思相愛という都合のいい状況なのである。
「そもそも寿恵子の母親に対し、自分が研究者としてひとかどの人物になったらまた会いに来ると約束したこと自体、自分勝手さの表れ。相手の気持ちなど考えもせず、自分自身に課した条件だけをクリアすれば良いという約束ですからね。その身勝手な姿勢はもはや『暢子超え』とすら思えるほど。実家が貧乏ゆえにいろいろ苦労した暢子に対し、金の力に任せて東大でも印刷所でも自分の想いのままにしようとする万太郎の身勝手さには、視聴者もほとほと呆れ果てています」(前出・テレビ誌ライター)
万太郎の申し出に大畑はいきり立っていたが、同様に視聴者も万太郎の発言に怒っていた。果たして今後、主人公として視聴者を惹きつけることはできるのか。それともアンチヒーローとしてダークな一面を発揮し続けるのか。この調子なら「ちむどんどん」の時と同様に、視聴者が<粗探しをするために観る>ことになるのかもしれない。