4月20日放送のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第16話「さらば源内、見立は蓬莱(ほうらい)」で安田顕演じる平賀源内が獄死する様子が描かれ、安田の演技もさることながら脚本の森下佳子氏に称賛の声があがっている。その理由は、「史実」と世間に広まっている各種の「通説」とフィクションが見事に融合されたストーリーだったからだ。
史実上の源内は、長崎で入手したエレキテルを修理・復元し、「見世物」として観覧料をもらったり、医療行為をするなどしていたが、類似品を作られたり、「医療効果はないニセモノ」などと指摘され、すたれてしまう。秩父で鉱山開発したこともあったが挫折。安永7年(1778年)には経済状況の悪化から「功ならず名斗(ばかり)遂(とげ)て年暮ぬ」という一句を残している。
翌安永8年(1779年)夏には引っ越し、11月20日には源内宅に泊まっていた門人の久五郎および友人の丈右衛門と「口論」になり源内が抜刀。2人は傷を負い、久五郎は傷がもとで死去。この内容には諸説あるが、この事件より前から、源内は癇癪を起すことがしばしばあったとも言われている。翌21日に源内は投獄され、12月18日に破傷風により52歳で獄死したとされている。
これが森下氏の腕により、源内は久五郎(齊藤友暁)から煙草として渡されていた阿片か何かの薬物中毒にさせられ、丈右衛門(矢野聖人)に殺害された。さらに久五郎を殺害した濡れ衣まで着せられて投獄された源内は、極寒の獄中で湯気の立つ器を目の前に出され、おそらくその器の中には毒物が仕込まれていたと思われるが、それにより獄死した。これだけでも見事な脚本だと称えたくなるが、この一連の事件の黒幕が田沼意次(渡辺謙)の失脚を狙っている一橋治済(生田斗真)であることまで描かれたことから、「森下氏の脚本がスゴイ!」と称賛されているのだ。
癇癪を起して腰に差していた刀ではなく、刀のように竹を削って作った竹光を振り回したり、薬物中毒になりながらもエレキテルを大切に思う源内を演じる安田の演技は圧巻だった。源内は刀など所持していなかった、腰に差していたのは竹光で、酒に酔って久五郎を殺害したと言われているが、源内は下戸で酒は飲まないと意次に進言する須原屋市兵衛(里見浩太朗)と蔦重(横浜流星)の「友の名誉を守ろうとする姿」は涙を誘った。さらには、それらすべてを理解しながらも世の安寧のために口を閉ざし、源内を悪者のままにした意次の悔しさと無念さが胸を締め付けた。
次週4月27日は本編ではなく「大河ドラマべらぼう ありがた山スペシャル」が放送されるが、「第1部終了回」と呼ぶにふさわしい第16話だったのではないだろうか。
(森山いま)