【シビル・ウォー アメリカ最後の日】アメリカ「分断戦争」のディストピア/前田有一「映画ハマるならこの1本」

 社会の分断が言われて久しいアメリカで「近未来を映す黙示のようだ」と話題を呼び大ヒットしたアクション映画。連邦政府から19の州が離脱し政府軍と戦いを繰り広げる設定がショッキングな話題作である。

 父親が政治風刺漫画家のアレックス・ガーランド監督は、本作では政治的主張は表に出さないように心がけたという。それでもクライマックスのホワイトハウスでの激しい戦いは、トランプ支持者の議事堂襲撃を思わせるなど、現実とのリンクを意識せずにはいられない。大統領選の年にふさわしい1本と言えそうだ。

 カリフォルニア州とテキサス州が同盟を結んだ「西部勢力」が、政府軍と激しい内戦を続ける近未来のアメリカ。ベテラン戦場カメラマンのリー(キルステン・ダンスト)をはじめとする4人のジャーナリストは、「西部勢力」が間もなく首都ワシントンD.C.を攻め落とすとの情報を摑む。独裁化を続ける大統領を取材する最後のチャンスだと、彼らは遠く離れたホワイトハウスに車で向かうことを決める─。

 リーたちが、街も人心も荒廃したアメリカ大陸を大移動する様子は、一風変わったロードムービー調だ。道中、銃声を聞きながら眠る夜や、目の前で撃たれ出血死する兵士の姿など、壊れゆく大国の姿が次々と描かれる。

 極め付きは、トラックに積まれた一般市民の死体を淡々と処理する白人至上主義者たちとの遭遇。平然と人を殺し、意図がまったく読めない彼らにリーたちが捕らえられ、必死に命乞いをするシーンは、凄まじい恐ろしさだ。役者たちの没入感を高めるためにカメラクルーは現場から離れて望遠で撮影している。

 リアルすぎる演出も必見だ。

(10月4日全国公開、配給 ハピネットファントム・スタジオ)

前田有一(まえだ・ゆういち)1972年生まれ、東京都出身。映画評論家。宅建主任者などを経て、現在の仕事に就く。著書「それが映画をダメにする」(玄光社)、「超映画批評」(http://maeda-y.com)など。

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