正しい時代考証が逆に、視聴者を疑心暗鬼にさせることもあるようだ。
4月20日放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」第13回では、主人公の槙野万太郎(神木隆之介)が旅の最大の目的であった博物館を訪れることに。憧れの植物学者・野田基善(田辺誠一)に出会い、野田の熱を込めた解説に胸をときめかせていた。
野田は万太郎が持ち込んだ植物のスケッチに「新種かもしれん」と驚き顔。新種には第一発見者が命名できると説明しつつも、日本国内には命名に際して参照する植物標本が少なすぎることもあり、「今のところ日本人研究者で植物の名付け親になった人間は一人もいない」との現実を明かしていた。
その言葉に万太郎が奮起するなか、野田の説明に時代考証ミスが含まれていたと指摘する視聴者がいたという。
「野田は『東京大学の植物学教室に(標本が)3000種類くらいあるが』と語っていました。そのセリフに対し、明治14年(1881年)の日本に“東京大学”は存在していないと指摘する視聴者も少なくなかったのです。日本にはもともと一つしか大学がなく、明治30年(1897年)に京都にも帝国大学が設立されたことから『東京帝国大学』と地名を入れて区別したのは広く知られる話。それゆえ明治14年時点では“東京大学”など存在していなかったとの主張ですね」(大学事情に詳しいライター)
夏目漱石の名作小説「三四郎」では、主人公の三四郎を「大学の小川さん」と紹介する場面がある。当時、大学は一つしかなかったので、その紹介で十分に伝わっていたというわけだ。
その一方で東京大学の公式サイトに掲載されている沿革では、明治10年(1877年)に「東京大学創設」と明記されている。それなら「らんまん」のセリフはとくに間違っていなかったのだろうか?
「意外に知られていないのですが、東京大学は最初『東京大学』として設立され、明治19年(1886年)に帝国大学令が施行されたことにより『帝国大学』に改称した歴史があります。つまり『らんまん』で万太郎が東京を訪れた明治14年当時は、まさに『東京大学』が正式名称だったのです。よって作中のセリフはしっかりした時代考証を経たものであり、なんら批判されるいわれはありません」(前出・ライター)
万太郎のモデルとなっている植物学者の牧野富太郎は、小学校中退ながら東大に出入りして研究を続けていた。その間、大学名は東京大学から帝国大学、そして東京帝国大学へと変更。牧野博士はそのすべてを経験していたことになる。
果たしてその史実は「らんまん」の作中でも忠実に再現されるのか。歴史マニアや大学マニアにとっては見逃さないポイントとなりそうだ。