まさかの事実発覚に、唖然としたのは当人たちだけではなかったようだ。
4月25日放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」第17回では、峰屋の大奥様ことタキ(松坂慶子)が、主人公の槙野万太郎(神木隆之介)と姉の綾(佐久間由衣)に「めおとになれ!」と命令。二人が実はいとこ同士だったことが明かされた。
綾はもともと、タキの娘の子。幕末から明治にかけて何度かパンデミックを引き起こした「コロリ」(コレラ)により綾の両親が亡くなり、孤児となった綾を万太郎の姉として引き取っていたという。
もとより万太郎は幼い時から身体が弱く、いつ亡くなっても不思議はないとされていた。それゆえ綾を引き取っておけば、万太郎が亡くなった際にも綾が婿を取ることで、造り酒屋の峰屋を存続できるとの皮算用だ。
「タキの告白に視聴者からは《衝撃のカミングアウト》といった驚きの声が続出していました。ただ正直なところ、綾のようなケースは明治どころから昭和中期まで珍しくなかったのです。綾のように親を亡くした孤児が典型的ですし、双子が生まれたら縁起が悪いとして片方を養子に出す例もありました」(女性誌ライター)
いくら元がいとこ同士とはいえ、現在は姉弟になっている綾と万太郎が結婚できるものかと怪しむ向きもあるだろう。その点については現在もなお、養子と実子の結婚を阻む法律はない。その逆に、本来の兄弟姉妹が養子になって離れ離れになった場合には、その血縁関係を理由に結婚できない定めとなっている。
ともあれ今後、綾と万太郎が祝言をあげる可能性は高そうだ。なぜかといえば、万太郎のモデルとなっている植物学者の牧野富太郎博士も、従姉妹と結婚していたからである。
牧野博士の結婚相手は綾とは異なり、年下だった。二人が兄妹になったこともない。しかも高知の師範学校を出たインテリで、無学の綾とは人物設定が異なっている。
「その違いに、NHKの苦心が現れているように感じます。というのも史実をなぞってしまうと、綾の将来があまりにも悲惨になるからです。牧野博士は従姉妹との結婚に乗り気ではなく、結婚後も東京に入り浸り、しまいには菓子屋の娘を妾にしていました。しかも妾との間にたくさんの子供を作り、本妻には金を無心するばかり。それでも牧野博士を支え続けた本妻は大したものですが、さすがに朝ドラに描くのは無理がありすぎます」(前出・女性誌ライター)
その妾こそ、万太郎が東京の内国勧業博覧会で出会った白梅堂の娘・寿恵子(浜辺美波)ということになる。その寿恵子にしても、史実通りに妾として描くわけにもいかず、おそらく作中では万太郎にとって唯一の妻となるのだろう。
ちなみに牧野博士と離婚した最初の妻は、番頭と再婚している。本作で言えばまさに、番頭の息子にして万太郎の付き人である竹雄(志尊淳)のことだ。それを美談として描くためにも万太郎が第17回で、竹雄に対して「『好きじゃ』いうて姉ちゃんに言うてこい」と命じたのだろう。
いかに史実から外れすぎず、しかも朝ドラらしい物語に仕上げるのか。綾と万太郎が実は姉弟だったという設定は、制作陣がひねり出したコペルニクス的転回にして、苦肉の策だったに違いなさそうだ。