最近は黒幕として悪役を演じることが多かった柄本明。放送中の「新宿野戦病院」(フジテレビ系)では、人情に厚い聖まごころ病院の3代目医院長・高峰啓介役を演じているが、見ていてとても気持ちがいい。
8月14日放送の第7話では、看護師長の堀井しのぶ(塚地武雅)とその母・房江(藤田弓子)との関係がクローズアップされ、柄本演じる院長の啓介にグッときた人が多かったのではないだろうか。この日の放送では、認知症が始まった房江がしのぶのことを15年前に亡くなった父と勘違いすることが多くなってきたため、しのぶは母の前では男性の姿になって父を演じ、それ以外の聖まごころ病院などでは女性の姿で暮らすようになっていたことが明かされた。
母を独居老人にさせないために、実家から近い病院で働きたいと求職するも、ジェンダーのせいで不採用続きとなっていたしのぶだが、聖まごころ病院では、院長の啓介が「女性とか男性とかどぉーっちでもいい。うちが欲しいのは優秀な看護師だから」と採用してくれたと述懐。「婦長」というバッチをしのぶに渡そうとするも、「婦長はだめだね。看護師長だ。ごめんごめん」と笑う啓介に、しのぶの目には涙が光るというシーンがあったのだが、この時の柄本演じる啓介の「ひょうひょうとした感じ」がとても素晴らしかった。
特に「ごめんごめん」と謝るところは、本気で謝っていることがわかるけれど重くない。柄本にしか演じられない、胸に風が通り抜けるような爽快感に「えもっちゃんには悪役よりも、実の娘のヨウコ(小池栄子)から“好色ジジイ”呼ばわりされるような善人をもっと演じてほしいなぁ」と思わずにいられなかった。ヨウコから好色ジジイのように言われて、ちょっぴりうれしそうな表情になるところも、柄本が演じるからこそ「啓介のかわいらしさ」が伝わってくる。いくつもの感情の集合体が人間であることを教えてくれる柄本には、面白かったりとぼけていたり温かかったりする人を、もっとたくさん演じてほしい。
(森山いま)