今回からは、「“顔”が作り変えるあなたの“性格”」です。まずはちょっとした脳についてのサイエンスアドベンチャーをお楽しみいただきたいと思います。
■「晴脳(はれのう)」と「雨脳(あめのう)」って、どんな脳?
また、ややこしいのが出てきましたね。英語で言えば「サニー・ブレイン」と「レイニー・ブレイン」ですが、実はこれ、「脳科学は人格を変えられるか(2014年)」の著者、オックスフォード大学のエレーヌ・フォックス教授が使い始めたもので、「楽観をつかさどる脳」と「悲観をつかさどる脳」を、“晴”と“雨”で、こう呼び分けたのです。
これまで出てきた“晴顔”と“雨顔”は、実は、この本家本元の「晴脳」と「雨脳」を、私が顔に応用して作ったもの。いわばパクリです(スミマセン)。いずれにせよ“顔と脳”の働きを、それぞれ“晴と雨”の二つに分けて対比させることで、とてもわかりやすくなります。
■晴脳と雨脳で性格が決まる
写真を見てください。あなたはどちら?「コップに水が半分“もある”」と楽観的になりますか?それとも、「コップに水が半分“しかない”」と悲観的な気持ちになりますか?
楽観と悲観は、それぞれ、脳の別の部分が担当しています。フォックス教授の定義に従えば、楽観を担当する脳を晴脳、悲観を担当する脳が雨脳というわけですが、どちらも、感情をつかさどる古い領域で、巨大な大脳皮質(人間独特の脳)に囲まれた脳の中央部分にあります。
この脳の中央部分を、ちょっと極端なのですが、私は“動物脳”と呼んでいます。晴脳と雨脳、2つとも、「人類誕生以前からある脳だ」という意味です。“動物脳”は、今でも人間が生存するためには、なくてはならない脳です。
■晴脳は快楽担当、雨脳は恐怖担当
晴脳は、“動物脳”の中でも上のほう、報酬や気持ちのいいことに反応する快楽の領域にあり、「側坐核(そくざかく)」とよばれている部分で、食べ物、睡眠、生殖などの“快楽”を追い求める脳です。「側坐核」は、快楽をゲットすると、快感ホルモン“ドーパミン”を出します。これが全身をめぐり、人は“快感の存在”を知るのです。
一方の雨脳は、晴脳の下、「扁桃体(へんとうたい)」という部分にあります。ここは、危険や脅威を警戒する恐怖の領域にあたります。捕食者、事故、飢餓などの“危険”を恐怖として感じとり、「生きのびるために」それを回避しようとする脳です。
“動物脳”の中にあり、全く逆の働きをする晴脳と雨脳は、常に世界を監視し、“快楽や恐怖”を探し出しています。そして快楽をキャッチし、恐怖を避けることによって、私たちは、日々、生き延びているわけです。
前出のフォックス教授は、「長年の研究から導きだした結論」 として、こう述べています。
「“快楽と恐怖”の感じ具合には、個人差があり、快楽が大きいか、恐怖が大きいかという感じ方の大小で、楽観的か悲観的かの性格が決まる」
「二つの回路(晴脳と雨脳)の反応のせめぎあいが物事の認識に偏りをもたらし、その結果、人それぞれの“性格”が形成されていく」
「二つの回路(晴脳と雨脳)のバランスこそが、あなたをあなたという人間に、私を私という人間にする」(カッコ内は中村)
つまり、晴脳と雨脳のバランスが、“人間の性格”を決めているというのです。
さて、それでは、あなたの性格を作り変えるには、どうしたらいいのでしょうか。恐怖を減らし、快楽をより多くゲットするという楽観的な性格をつくることは、できるのでしょうか?できます。“顔”で、できるのです。そのノウハウを理解するにはもう少し、サイエンスアドベンチャーが必要です。
次回、「雨脳は暴走する」で、あなたの性格を作り変える方法が見えてきますよ。
●プロフィール
なかむら・かつひろ1951年山口県岩国市生まれ。早稲田大学卒業後にNHK入局。「サンデースポーツ」「歴史誕生」「報道」「オリンピック」等のキャスターを務め、1996年から「ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)ほか、テレビ東京などでワイドショーを担当。日本作家クラブ会員。著書に「生き方はスポーツマインド」(角川書店)、「山田久志 優しさの配球、強さの制球」(海拓舎)、「逆境をチャンスにする発想と技術」(プレジデント社)、「言葉力による逆発想のススメ」(大学研究双書)などがある。講演 「“顔”とアナウンサー」「アナウンサーのストップ・ウォッチ“歴史館”」「ウィンウィン“説得術”」