「給湯器の修理依頼があって自宅に呼び出されたんです。支店から奥多摩のほうまで車で1時間以上かけて訪ねたんですが、玄関先で依頼者にいきなりスプレー状の消毒用アルコールを吹きかけられたんです。シャツやマスクはアルコールでびしょびしょ、顔にもかかって戸惑っていると『コロナが移ったら大変だから』とひと言。それでもお客さまに文句は言えませんから作業はしました。終了後は私が触った場所は全部アルコールで拭き取るように言われ、トイレをお借りしたいとお願いしても断られました。でも、それなら出張費と工賃はもらえるのでまだマシなほう。現場に向かっている途中に『やっぱりコロナが怖いから』とドタキャンされることも少なくないんです」
都内にあるガス器具販売会社の従業員の嘆きだ。感染対策には万全を期しているというが、ここに限らず営業マンのツラい体験は日常茶飯事だという。
感染が拡大するにつれ、日本中で「コロナ過敏症」ともいえる行き過ぎた行動、感染した人に対する差別の報告が後を絶たない。ゼロだった岩手県で感染者が出ると、その人の勤める会社に誹謗中傷の電話が殺到。愛媛県今治市では感染者の身元を特定して写真付きのビラが配られるなど、もはや魔女狩り状態。日本中でコロナ絡みの不穏な事例が日々更新されている。
「透析している父親の見舞いに都内からT県の病院に行きました。事前に電話で確認していたのに待合室で2時間近く待たされ、いろんな書類を書かされ、私のほうをチラチラ見ながらひそひそ話す看護師さんもいて、帰り際には退院のときはできれば来ないでほしいと念押しされました」(40代女性)
「大阪から出張でF県に行ってスーパーで昼飯を買っている間に車のナンバープレートを傷だらけにされていました。おもわず『えっ!?』と固まりましたが、駐車場に入ったときにナンバーをじろじろ見ていく人が何人もいたので…確かに大阪も感染者が増えたけど、かなりゾッとしました」(30代男性)
「神奈川県住みですが、一人っ子なのでK県の実家に帰省する予定でした。でも母が急に電話してきて、近所の人が僕が戻ってくるのかすごく探りをいれてきて心配だと言ったので、急遽飛行機をキャンセルです」(20代大学生)
「電車内で転んだ中年男性がいて携帯電話とかが床に散らばったから、『大丈夫ですか?』と拾おうとしたら、いきなり『触るな!コロナが移ったらどうするんだ!』と怒鳴られ、怖かったです…」(10代学生)
「N県のレストランで働いてる友人から聞いたけど、電話予約で東京方面の人だったら『満席です』と断れと言われてるらしい」(40代男性)
「都内で働いてますが、普段は連絡も取らない地元の親戚から今年は名産品のお中元が届いてビビった。つまり、お前は帰省するなというメッセージだと思う」(30代男性)
こんなまさかの事態が、日本のそこここで起こっているようだ。だがそれも、氷山の一角。これからの帰省シーズン、さらにコロナヘイトやコロナ差別は大きくなるはずだ。GoToキャンペーンの影響か、各地で感染者が急増している。高齢者の多い地域や医療提供体制の脆弱な地方の人が過敏になるのもやむなしだ。
今後はこうした理不尽な事態が、地方にも広がっていくことが予想される。もちろんコロナに感染しない、感染させない行動がいちばん重要だが、感染した人の心のケアもこれからは重視されるべきではないか。
(山田ここ)