「今の環境がとても嫌。でも、私はもうここでこうして生きていくしかない」
そんなふうに、自分の未来を諦める女性がいます。彼のDVに悩む女性にも多いです。しかも、周囲から見たら「今ならそこから抜け出せそうだよ。抜け出したらいいのに」という環境であっても、その場からどうしても動けない……そんな女性たちは多いのです。
それはなぜか。こうした女性たちはこれまでの学習によって、「もう私はダメ」と完全に無力になってしまったからです。これを心理学では【学習性無力感】といい、心理学者マーティン・セリグマンらの犬を使った実験でも立証されています。
マーティンらはまず、犬が逃げられないように拘束して電気ショックを与えました。次に、逃げようと思えば電気ショックから逃れられるような箱の中で電気ショックを与えたのですが、犬は逃げませんでした。最初の段階で「逃げられない」ということを学習していたため、逃げられる環境になってからも逃げようとしなかったのです。これが学習性無力感というものです。
人間では、前述したようにDVを受けている女性に同様の状態がみられます。DVを受け続けると、「自分はもう逃げられない」と学習。同居中の彼が不在のときで “逃げられる環境”にあっても、逃げるという選択肢が頭に浮かばないのです。
DVを受けている女性について、よく「DVの後に優しくされるから、その男性から逃げられないのでしょう?」という人がいます。その可能性がゼロではありませんが、それだけが理由ではないということです。
もしあなたが彼から暴力を受けたら、あなたの周囲の人たちが暴力を受けたら……どうぞこの学習性無力感というワードを思い出してみてくださいね。そして、暴力からは必ず逃げてください。
ちなみに、この学習性無力感は、DV以外の監禁などの犯罪シーンでも起きます。散々ツラい目に合わされた被害者は、その場から逃げるという選択肢が頭の中から消えてしまうのです。
(恋愛カウンセラー・安藤房子)