せっかくの緊張感あふれるシーンに、このミスはいただけなかったようだ。
6月22日放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」第59回では、主人公・万太郎(神木隆之介)の結婚相手である寿恵子(浜辺美波)が、万太郎の祖母・タキ(松坂慶子)と百人一首勝負に挑む場面が描かれた。
タキは寿恵子に対し、自分も嫁入りの際にそうしてきたと強調。寿恵子も覚悟を決めて受け入れ、二人はタキの部屋で対峙していた。
緊張感が高まる瞬間、庭では鹿威し(ししおどし)がカン!という甲高い音を鳴らし、二人の緊張度合いを比喩しているようだ。その演出に、視聴者の間から呆れ声が漏れ伝わっていたという。
「鹿威しを緊張感の象徴に使うのはよく見る演出。それ自体は構わないのですが、問題は当の鹿威しそのものにありました。というのも画面に映った鹿威しの構造では、そもそも『カン!』という音が鳴るはずもなかったからです」(女性誌ライター)
鹿威しは竹筒の片方に水が流れ込み、水の重みで竹筒が傾くことを利用。下を向いた竹筒から水が流れ出し、軽くなったことで元の姿勢に戻る際に、竹筒の反対側が庭石を叩き、カン!という甲高い音を鳴らすという仕組みだ。
もともとは農作業にて鳥獣を脅すために使われていたものであり、カン!という音を出す機構が鹿威しの本質だ。ところが本作の鹿威しではそもそも、その音が出るはずもないというのである。
「鹿威しの音は、竹筒と庭石がぶつかって鳴るもの。ところが作中の鹿威しはコケの生えた地面にぶつかっていました。その際には竹筒の重みで地面が揺れ動く様すら描かれており、どうやら柔らかい地面を叩いていた様子。これでは作中で聞こえてきたようなカン!という音が鳴るはずもないのです」(前出・女性誌ライター)
おそらくこの場面では、担当者が鹿威しを用意し、注ぎ口に水が溜まるようにセッティングまではしたものの、反対側に庭石を置く必要性までは認識できていなかったのだろう。
それでは音が鳴らないのでおかしいと思いそうなものだが、この手の効果音はアフレコで入れるのが定石。現場では「パスッ」といった小さい音が鳴るのみだが、とくに疑問にも思わなかったのかもしれない。
「万太郎の実家である造り酒屋の峰屋は、深尾の殿様に長年、酒を献上していた伝統を持ちます。それゆえ邸宅も庶民の家としては相当に立派で、日本庭園というべき広い庭もあり、その再現度には素晴らしいものがありました。そんな庭に据え付けられている鹿威しがよもや、庭石なしとは。まさに『画竜点睛を欠く』とはこのことでしょう」(前出・女性誌ライター)
このところ万太郎と寿恵子の恋バナが盛り上がったおかげで、視聴率も上向きだという「らんまん」。今後の展開で余計なケチが付かないよう、時代考証はしっかりとお願いしたいものだ。