7月25日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第98回では、女優の鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)が付き人のアキ(能年玲奈)に、母親について訊ねる場面があった。そこでアキが思い悩む姿を巡って、勘違いしている視聴者も少なくなかったという。
母親の春子(小泉今日子)は、現在でこそ地元の岩手・北三陸でスナック務めしているものの、若いころは東京で歌手を目指していた。しかも若かりし日の春子(有村架純)は、ひろ美の影武者として何枚ものシングルレコードをレコーディング。ひろ美のデビュー曲である「潮騒のメモリー」も、実際に歌っているのは春子だったのである。
「そのため視聴者のなかには、アキが自分の母親を天野春子だと明かすことで、ひろ美を驚かせたくないと考える人も少なくありません。しかしその考えは実のところ勘違いだというのです」(テレビ誌ライター)
勘違いとはどういうことか。というのも当のひろ美は、春子が自分の影武者だったことを知らないからだ。そもそも彼女は「潮騒のメモリー」などのシングルも自分がレコーディングしたものだと思い込んでおり、影武者がいたこと自体、気が付いていないのである。
歌番組に出演した際にも、スタジオではひろ美自身が歌唱。その口元に合わせて春子が同時に歌っており、テレビから流れる歌声は春子のものだった。しかし当時の歌番組は「ザ・ベストテン」にしろ「ザ・トップテン」にしろ生放送が基本。そのためひろ美は、自分ではない声がテレビから流れていることに気が付くはずもないのだった。しかも影武者の起用は事務所側の意向ゆえ、ひろ美に真実を伝える人もいないのである。
「それに加えて音痴のひろ美は、自分の歌声と春子の歌声を聴き分けることすらできなかった可能性があります。そのためレコードになった『潮騒のメモリー』にしても、自分ではない人が歌っているとは思っていなかったのでしょう」(前出・テレビ誌ライター)
そういった前提があるからこそアキが悩むのも、春子が影武者だったことを明かせないからではなく、そもそも「鈴鹿ひろ美の歌は影武者が歌っていた」という事実そのものを告げられないからだった。
だからこそアキは、春子について「歌がうめえお母さんです」と説明できた。そもそもひろ美が「天野」というアキの苗字に反応しないこと自体も、自分に影武者がいたことを知らない証左だろう。このように「あまちゃん」を存分に楽しむには、かなり複雑な設定を頭に叩き込んでおく必要があるようだ。