きっとその理由は、残りの回を観ることで理解できるのかもしれない。
9月7日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第136回では、ヒロインのアキ(能年玲奈)が芸能人の地位をなげうって、岩手・北三陸に帰る姿が描かれた。
冒頭、所属事務所の社長でもある母親の春子(小泉今日子)に「オラ、岩手さ帰りでえ」と懇願し、「これ何回目だ?」と呆れられていたアキ。その質問に「海女になる時と、南部潜りやる時、あとアイドルになる時、で今日」と返し、4回目であることを認識していた。
これまでアキは何度も、突然の思い付きで新しい道に進むことに。それが今回は「岩手に帰る」という、はた目から見れば後ろ向きの選択を選んでいた。もちろん彼女のなかには、東日本大震災の被害に苦しむ北三陸に戻って、少しでも復興の助けになりたいという強烈な郷土愛がある。だがこれまで「あまちゃん」を観続けてきた視聴者にとっても、今回の選択ばかりはどうにも腑に落ちないというのである。
「過去3回の選択は、決して何かを諦めて別の道を選んだのではなく、自分の行き先を模索するアキが自分で新しい方向性を見出したものばかりでした。そんな前向きな選択に対して今回は、せっかく成功し始めていた女優やタレントの仕事を投げうってのUターン。視聴者にしてみれば、なぜ現在の仕事を辞めてしまうのか。これだけはどうにも理由が分からないのです」(テレビ誌ライター)
北三陸に戻ってみんなの顔を見たいというのは、被災地に縁のある人なら誰でも共感できるとこだろう。しかし芸能活動が順調になってきたアキが、その仕事を投げうってまで戻ってくることを、果たして北三陸の人々は喜んで受け入れられるだろうか。
むしろアキが東京で芸能人として活動し続け、そのなかで復興についてアピールしてくれるほうが、地元への貢献度は大きくなるのではないか。北三陸に戻ったら、無職の二十歳女性が病み上がりの祖母と二人暮らしすることになる。アキ本人はそれでも満足かもしれないが、周りの人も一緒に幸せになるとはとても思えないのである。
「鬼才との呼び声も高い宮藤官九郎のことですから、視聴者のそんな疑問も脚本には織り込み済みでしょう。これでアキが北三陸で大歓迎されたら、それ以上話が進まなくなるというもの。放送はあと20回を残すのみですが、ここからもう一波乱、二波乱はありそうな様子です」(前出・テレビ誌ライター)
あらゆる伏線が回収されまくっている「あまちゃん」の終盤、アキが突如、北三陸に帰ることも、おそらくは最終盤の伏線になっているはず。視聴者をいい意味で裏切ってくれる展開に、期待も高まるというものだ。