さすがにそれは無理がないか。そう驚く視聴者も少なくなかったようだ。
12月11日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第51回では、愛知でコンサートを開いたヒロイン・福来スズ子(趣里)の楽屋にファンだという大学生が訪問。その時は逃げ帰るように出ていくも、スズ子らの宿泊先で再会する場面が描かれた。
その大学生は今後、スズ子と恋仲になる村山愛助(水上恒司)。村山興業の御曹司だが、この時点ではまだ、スズ子たちも彼の正体を知らないようだが。そんな愛助と出会う場面に、いかにも不自然な描写があったという。
「地元の有力者らしき人物に連れられ、楽屋を訪れた愛助。しかし恥ずかしさからなのか、ろくにスズ子と会話もできずに逃げ帰りました。この演出は彼の純真さを表すものとして理解できます。ところがスズ子らの宿に突然現れたのも不自然なうえ、いきなり小夜(富田望生)から盗人呼ばわりされたのはもっと不自然。さすがにこの展開には無理があると視聴者が呆れたのも当然でしょう」(テレビ誌ライター)
マネージャー見習いの小夜はコンサートのギャラをがま口に入れていたはずだが、がま口の中身はすっからかん。そのため宿代が払えなくなっていた。ここまではよくあるおっちょこちょいのエピソードだが、小夜はなぜか、宿に現れた愛助がギャラを盗んだと言い張ることに。しかも苦し紛れの責任転嫁ではなく、本当に愛助が盗んだと疑っている様子だったのである。
愛助がスズ子らの宿に現れたことにはまだ、何かしらの理由がありそうなもの。しかし小夜が愛助を疑う流れはさすがに無理に過ぎるというものだろう。ここまでほとんど破綻のない物語だった本作にてなぜ、いきなりこんな無理筋のエピソードが展開されたのだろうか。
「スズ子のモデルである笠置シヅ子が、吉本興業の経営者一族である吉本穎右氏に出会ったのは、やはり愛知でした。ただドラマと違うのは出会いの順番が逆になっていることです。笠置シヅ子は同じ愛知で公演していた人気俳優の楽屋で穎右氏を見かけ、翌日にも自分の宿で見かけています。その後、穎右氏が吉本興業の社員に連れられて笠置の楽屋を訪れ、ここで初めてちゃんと挨拶していたのです」(前出・テレビ誌ライター)
笠置は穎右氏と初めて言葉を交わした時点から、吉本興業の人物だと認識していた。それに対してドラマではスズ子が愛助のことを、大阪出身で東京の大学に通う学生だと受け止めている。この違いは決して無視できないのではないだろうか。
わりと史実に忠実な「ブギウギ」だが、愛助との出会いには創作の要素が大きい。そこで生じる不自然な部分をあえて、小夜の言動に押し込めたのではないだろうか。小夜がいきなり愛助を盗人呼ばわりすることで、他の不自然さを覆い隠しているというわけだ。
「梅丸楽劇団を退団してからのスズ子はかなり苦労しているように描かれていますが、笠置は自分の楽団で成功していた時期もあり、今回の愛知公演でも昵懇だった俳優の楽屋に遊びに行く余裕がありました。そういった華やかな部分をあえて描かないという制作側の判断が、ある種のひずみとなって、今回の無理筋な展開に表出しているのかもしれません」(前出・テレビ誌ライター)
この調子だと今後も、創作要素ゆえのひずみが露呈しかねない「ブギウギ」。そのひずみを吸収させるためのガス抜き的な役割を担わせるためにも、小夜という架空の人物が必要だったのかもしれない。