12月12日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第52回では、ヒロイン・スズ子(趣里)の大ファンを自認する村山愛助(水上恒司)の正体が判明。スズ子らが大いに驚くなか、セットの豪華さに「これぞ朝ドラクォリティ!」と驚く視聴者もいたようだ。
マネージャー見習いの小夜(富田望生)がコンサートのギャラを紛失してしまうも、同じ宿で食事をふるまった大学生の愛助が宿代の半分を払っていたことが判明。スズ子が困惑するなか、神戸に移動する列車内で偶然にも愛助が隣の席に座っていた。
小夜は相変わらず愛助がお金を盗んだと怪しむも、その疑いは一挙に晴れることに。たまたま通りかかった軍人が愛助に「村山の坊ちゃんじゃないですか!」と声をかけたことで、愛助が村山興業の御曹司であることがバレたのであった。
「愛助のモデルは吉本興業の経営者一族だった吉本穎右氏。スズ子のモデルである笠置シヅ子とは、ドラマと同様に愛知県で出会い、神戸に移動する列車に同乗していたところも史実通りです。実際には穎右氏が笠置のために席を確保しておいたのですが、ドラマではあえてドタバタ喜劇風に演出しているという違いがあります」(テレビ誌ライター)
笠置は知り合ったばかりの穎右氏と神戸までの車中で語り合い、好意を抱くきっかけとなっていた。それゆえ列車内で二人が邂逅するシーンは、ドラマ的にも重要な場面であり、ここはしっかりと描くべきだろう。
どうやら制作側は列車内のシーンにかなり力を入れていた様子。その注力ぶりは、鉄道オタクたちをもうならせるほどの出来栄えだったというのである。
「列車内のシーンでは、窓に木製の鎧戸(細長い板を並べたもの)がハマっていることを不自然に感じた視聴者もいたことでしょう。ところがこの鎧戸は戦前に製造された客車で実際に採用されていました。ロールカーテンのような柔軟な素材がほとんどなかったころ、客車の日よけにはこういった鎧戸が使われるケースも珍しくなかったのです」(トラベルライター)
その鎧戸に加えて、窓の下に据え付けられた灰皿や、垂直にせりあがった木製の背もたれなどに、既視感のある視聴者もいたことだろう。
ほかにも客車の天井が丸屋根になっていることから、どうやらこの客車は「スハ32系」を再現したものと思われる。昭和30年代にはほぼ引退していたスハ32系だが、一部は昭和50年代まで使われていたことから、若いころに乗った経験があるという視聴者もいるはずだ。
「スハ32系は昭和4年から製造された全長20mの鋼製客車。作中のセットでは微妙に位置がズレているものの、ボックス席一つにつき2枚の窓になっている配置もスハ32系の特徴です。ほかにも荷物置きの網棚や、木製の手すりなども当時の車両を再現。おそらく車両の半分程度をまるまる作りこんでいるようで、さすがは朝ドラだと感心しましたね」(前出・トラベルライター)
前日の第51回では東京から愛知に列車で移動するシーンもあったが、この時は鎧戸が映っていなかった。日よけ用ゆえ、不要な時は上側に格納できるというわけだ。このように鉄ヲタを唸らせる演出ゆえに、小夜がギャラを紛失するというドタバタ劇も、温かい目で見ていられたのかもしれない。
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