なぜこんないい加減な描写ばかりになったのか…。終盤にかけてのグダグダぶりに視聴者もあきれ果てていたようだ。
NHK連続テレビ小説「ブギウギ」は3月29日放送の第126回でいよいよ最終回を迎えた。ヒロインの福来スズ子（趣里）は歌手引退を決意し、お別れコンサートを開催。「東京ブギウギ」など恩師である作曲家・羽鳥善一（草彅剛）が作った曲をすべて歌い切り、歌手として有終の美を飾ったのであった。
「楽屋には梅丸少女歌劇団時代の同僚らに加え、かつてのマネージャーだった山下（近藤芳正）や村山興業の東京支社長だった坂口（黒田有）らもお祝いに駆け付けました。最終回ならではのキャスト全員集合に視聴者が沸くなか、東京にいない人からの手紙も届いていましたが、その手紙が時代考証を無視した代物だったのです」（テレビ誌ライター）
スズ子の故郷である大阪から手紙を送ってきたのは幼馴染のタイ子（藤間爽子）。いまでは地元で旅館の仲居をしているという。手紙に記された住所は大阪市福島区で、スズ子の実家だった銭湯のはな湯もあった場所だった。
またスズ子のマネージャーを務めていた小夜（富田望生）は米兵のサムと結婚して渡米しており、アメリカからエアメールが届いていた。サムの実家は農場を営んでおり、同封されていた写真も農場をバックにサムが小夜をお姫様抱っこしているものだ。
これらの手紙はこれまでの展開を反映したものであり、視聴者としても納得のいくところ。ところが重要な小道具であるそれらの手紙に、いずれも時代考証ミスが潜んでいたというのだから驚きではないか。
一つ目はタイ子が記していた住所だ。そこには「福島区福島十丁目」と記されていた。実際の福島には八丁目までしかないが、ドラマではあえて架空の住所を使うのが常套手段であり、そこは問題ではない。
一方で、福島区に町名としての「福島」が誕生したのは昭和50年のこと。作中の昭和32年にはまだ上福島北や上福島中といった町名が使われており、福島〇丁目は存在していなかった。すなわちタイ子が送った手紙では、未来の住所が記されるという考証ミスが露わになっていたのである。
「もう一つはSayo Brownこと小夜が送った手紙に書かれていた住所です。そこには『Los Angeles, CA 90227』と書かれており、この『90227』はジップコードと呼ばれる郵便番号のこと。たしかに90227はロサンゼルス市内を示す番号ですが、問題はアメリカでジップコードが導入されたのが昭和38年（1963年）だったことにあります」（前出・テレビ誌ライター）
つまり作中の昭和32年にはジップコード自体が存在しておらず、自分の住所にジップコードを書き添えることもまた、あり得なかった。こちらはより明白な時代考証ミスだと言えるだろう。
今期の「ブギウギ」ではスズ子が梅丸楽劇団に加入するため上京する辺りまでは、視聴者もワクワクしながら観ることができていた。ところが中盤以降は様々な考証ミスが目立つようになり、視聴者を惑わせるようになっていた。
また、本作は“ブギの女王”こと笠置シヅ子の生涯をモデルとしており、こちらも梅丸少女歌劇団で活躍していた前半までは、笠置の来歴を忠実に再現。国民的な歌手に成長していく過程が観られるものと視聴者も楽しみにしていたものだ。
しかし愛助（水上恒司）との恋バナに回数を取り過ぎたあたりから、スズ子と笠置の乖離が激しくなることに。中盤以降はスズ子のエキセントリックな性格やおっちょこちょいなところが異様に強調されるようになり、とても国民的な人気歌手の物語には見えなくなっていたのである。
「最終回のラストシーンは、スズ子がカメラに向かって『おかわりや！』とお茶碗を突き出すというもの。これがコメディアンの物語だったらこの終わり方も理解できますが、国民的人気歌手を描いた物語の最後にこのシーンを持ってきた意図はまったくもって意味不明です。最後までスズ子という存在を滑稽な人物として描き続けた制作陣の意図は、さっぱり理解できません」（前出・テレビ誌ライター）
主演の趣里としても、笠置シヅ子の芸能人生を再現することにやりがいを感じていたはず。それがふたを開けてみれば最後まで頓痴気なキャラを演じさせられたのだから、気の毒というものだ。なにより「話が違う！」と憤っていたのは、本作を最後まで観続けた視聴者のほうではないだろうか。
