今、北海道の札幌に来ています。メインの目的は取材の仕事で、そんなにゆっくりできる日程でもなく、残念ながら自由時間はそれほどありません。が、昨夜、その取材が予想外に早く終わったので、気ままにお酒を飲む余裕が生まれました。
そこで目指したのが歴史ある商店街・狸小路の外れに位置する「mayu繭」という店でした。店主が面白い人で、「サッポロッピー」という名の、甲類焼酎を割るための炭酸飲料を独自に作り出した方なんです。ずいぶん前にその飲み物についての取材でお話を聞いたことがあり、せっかく近くにいるし、何年ぶりかに顔を出そうと思って訪ねたのでした。
前回の取材時は、いわゆるダイニングバー的な雰囲気のお店だったはずなのですが、行ってみると、業態が立ち食い寿司になっていました。
お店の看板は「mayu繭」となっているのに、中身がずいぶん違う。しかも店内で働かれている方が、前に会った人と違っていて、「ひょっとしてこれは、店名だけ残して別の人が敷地を引き継いだパターンかな」と思いました。
しかし、勢いで店に入ってしまったので、とにかく飲んで行くことにしました。
ドリンクメニューの中にはサッポロッピーがちゃんとあって、やはり同じ店ではあるようだ。ちなみにサッポロッピーはコーヒーテイストの炭酸飲料で、甲類焼酎を割ると、なんだか不思議なコクとキレのある飲み物が生まれます。
それを飲みつつ、お寿司をいただくことに。タコ、ぼたん海老、つぶ貝…待ってくれ、めちゃくちゃうまい!どれも感動的においしいんです。それで1貫200円とか、300円とか、自分が普段食べる回転寿司よりは少し値が張るんですが、このおいしさにしては全然安く思えます。特にぼたん海老の、ねっとりと広がる豊かな甘みには、涙が出そうになりました。
お店の方に聞けば、前の店主は別のお店を新たに開き、こっちは思い切って立ち食い寿司を軸にした酒場にしてみたんだそうです。腕利きの寿司職人さんを探して雇い、店内を改装してと、結構大変だったようなのですが、その甲斐あってお店は盛況。18時台にお店に着いたのにもうトロなんかは品切れでした。北海道のお寿司ってやはり、レベルが違いすぎますね。以上、おいしい寿司の食べたてほやほやの思い出でした。ちなみにその後、前の店主さんのお店にも行けて、そこでもおいしいお酒を飲むことができました。
もう1つ思い出したんですが、私が小学生の時に膝をケガしたんですね。なかなか傷が治らず、ちょっとした手術までしなくてはならないような事態になったんですが、病院でかなり痛い思いをして、なんとか無事に処置が終わった帰り、「よくがんばったな」と、両親が寿司屋に連れていってくれたんです。それも、回転しないタイプの、ちょっと高級そうな雰囲気の寿司屋さん。子供心にちょっと緊張しながら、カウンターに親と並んで座った記憶があります。
しかし、しかし、当時の私は寿司が全然好きじゃなかったんです。生魚が苦手で、今思えば贅沢すぎますが、せっかく寿司屋に連れてきてもらっても、おそらくかっぱ巻きやかんぴょう巻きぐらいしか食べられなかったはず。
それを知っているはずなのに、なんで両親は寿司屋を選んだのか…考えるほどに不思議なんですが、たぶん、あれはきっと親が食べたかっただけなんです。そうとしか思えない。子供のケガを名目にちょっと仕事を早上がりして、寿司屋で1杯飲みたかったんだと思います!
まあ、今となってはその親の気持ちが痛いほどわかるのですが、あの時、ハンバーグが食べたかったなぁ。次回のテーマ「肉と酒」でどうでしょうか!
スズキナオ:東京生まれ、大阪在住のフリーライター。著書に「遅く起きた日曜日にいつもの自分じゃないほうを選ぶ」「『それから』の大阪」他。「家から5分の旅館に泊まる」が絶賛発売中。