アナウンサー人生で一番の教訓は、「思えば伝わる」この教訓がなかったら、私は一人前のアナウンサーになれなかった。(写真は、NHK新人アナの頃「チャンネルフラッシュ」担当時)
■ 「中村クン、その原稿を伏せなさい!」
今回は、アナウンサー(あるいは「人生」)の最も大事な教訓についてお伝えします。話は新人研修の時、初めて天気予報を読んだ時のことです。アナウンサーの同期18人が、四角に並べられた机を囲むように座って、それぞれの前には「関東地方の天気予報の原稿、B4版」が置かれていました。すると、杉澤大先輩(後にアナウンス室長となる杉澤陽太郎氏)が、「おーい、中村クン、それ読め」ってサラリと言う。手元の原稿用紙には、関東地方1都6県の天気予報がぎっしり。しかも、暗号で。そのうえ字、汚い。簡単に文章で説明すると、「NNE→SW」に続き〇で囲んだ「ク」の文字、次に小さい〇を挟んで、〇で囲んだ「ハ」、その後に「1~1.5」と書かれている原稿です。
で、この原稿、実際には、「東京都、今日日中は、北北東の風が南西にかわって、曇り時々晴れ、海上は波が1メートルから1メートル50センチでしょう」と読むのですが、初めて見たら読めませんよね。それを私に読めという。
でも、実は私、うれしかったのです。大学時代、アナウンス研究会にいて、こんな原稿をいつも読んでいたのです。「ヨッシャ―。まかしとけ!」と張り切って読みました。時間も3分ピッタリ、トチリなし。エッヘンといった感じ。すると杉澤先生が言う、
「中村クン、その原稿を伏せなさい!」。で、中村それを伏せる。すると先生は、「中村クン、東京は今日、日中、ハレかアメかクモリか?」。中村慌てて、「えっ…。すみません、覚えていません」となって先生怒る。
「中村クン、キミは今、その原稿をどんな気持ちで読んだ?おそらくイイ声で、トチらずに、時間内に、カッコよく読もうとしたはずだ。その中に、『伝えよう』 という気持ちがあったか?つまり、今日は子供に傘を持たせるべきか、洗濯物は外に干せるか、花の水やりは?などと考えている人に対して、『伝えよう』 という気持ちがあっただろうか?」
先生はさらに続けて、「中村クン、アナウンサーの世界には、『思えば伝わる』という格言がある。“思いは言葉に反映する” “思いは顔に出る”つまり、『思えば、その“思い”が、“言葉や顔”に出る』 のだよ。だから“伝わる”のだ!キミたちアナウンサーがアナウンサーであるために、一番最初に肝に銘ずることは、“熱き思い”をもつということだ」
そして、「中村クン、これは放送の世界だけじゃない。ビジネスでも、子育てでも、恋愛でも、人生全般に言えることだ。“熱き思い”をもって生きていきなさい」 って。
■ 『思えば伝わる』 これ、ものすごい教えでした
その時から、「思えば伝わる」は、私の大切な人生訓になりました。シリーズでご紹介しているアナウンサーのいろんなテクニックは、この「思えば伝わる」に根差しているからこそ、強力な効果を上げるのです。その後、後輩に教える立場になってからも、アナウンサーの心すべき教訓の第一に「思えば伝わる」を黒板に大書して講義をしてきました。
一般の講演会も、私の人生訓の中で、最も大切な言葉、「思えば伝わる」から始めます。そして今では、“熱き思い”は、伝わるだけではなく、必ず“実現する”のだという確信があります。杉澤大先輩は今も私に、こう呼びかけています。
「中村! “熱き思い”をもて! “燃ゆる思い”をもって生きていけ!!」
次回は、アナウンサーの“バングミ顔”テクニック(続)。俳優さんが“役作り”をするように、アナウンサーは“バングミ顔づくり”をします。具体的な例と、驚くべき、その効果についてお伝えします。
●プロフィール
なかむら・かつひろ 1951年山口県岩国市生まれ。早稲田大学卒業後にNHK入局。「サンデースポーツ」「歴史誕生」「報道」「オリンピック」等のキャスターを務め、1996年から「ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)ほか、テレビ東京などでワイドショーを担当。日本作家クラブ会員。著書に「生き方はスポーツマインド」(角川書店)、「山田久志 優しさの配球、強さの制球」(海拓舎)、「逆境をチャンスにする発想と技術」(プレジデント社)、「言葉力による逆発想のススメ」(大学研究双書)などがある。講演テーマ 「“顔”とアナウンサー」「アナウンサーのストップ・ウォッチ“歴史館”」「ウィンウィン“説得術”」