【私にふさわしいホテル】のんが腹黒い女流作家を怪演!/前田有一「映画 ハマるならこの1本」

 のんが、めっぽう性格の悪い女流小説家を演じる、異色のコメディドラマだ。柚木麻子の同名小説を、ドラマ「SPEC」(TBS系)シリーズの堤幸彦監督が実写化した。腹黒のヒロインを違和感なく演じる、のんの演技力には驚かされた。

 新人作家の加代子(のん)は、新人賞を受賞するが、大御所作家の東十条宗典(滝藤賢一)に酷評され、干された状態だった。そんな加代子は、川端康成、三島由紀夫、池波正太郎など名だたる文豪たちも定宿にした由緒ある「山の上ホテル」に自腹で部屋を取る。と、東十条が直上の部屋に泊まっていることを知った加代子は、大学時代の先輩で敏腕編集者の遠藤(田中圭)の手引きによって、東十条の執筆を邪魔して、人気文芸誌の締め切り日に原稿を落とすことに成功した。さらに、その文芸誌の冒頭に自分の短編をねじ込もうという邪悪な作戦を試みたが─。

 舞台を原作の平成から昭和に変更したことで、モーレツな上昇志向を持つ加代子の逆襲と、大御所作家のしたたかさにより説得力が増す。この時代の出版業界は、今とは比較にならないほどの影響力を持っていたからだ。

 自作を酷評された腹いせに、メイドの振りをして、東十条の書きたての玉稿に、酒をぶっかけて台なしにしたり、彼好みの純朴少女を演じて時間稼ぎの身の上話をする、のんの変幻自在な演技に要注目。ある出来事で東十条の本音を知り、2人が一時休戦して、復讐へと手を結ぶ展開には思わず笑ってしまった。

 本作は、業界の悪しき慣習や、理不尽な世間の評価と闘い、作品を生み出す作家の苦しみを悲喜劇として描いている。

 切ない終盤の展開は必見である。

(12月27日=金=より全国公開 配給:日活 KDDI)

前田有一(まえだ・ゆういち)1972年生まれ、東京都出身。映画評論家。宅建主任者などを経て、現在の仕事に就く。著書「それが映画をダメにする」(玄光社)、「超映画批評」(http://maeda-y.com)など。

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