今はライターとして1人で仕事をしていますが、そうなる前、東京で10年近く会社員をしていました。
IT企業が募集していたアルバイトを数年続けていて、それが縁で勤めることになったんですが、その会社の社長がめちゃくちゃワンマンな人だったんです。あれはワンマンというんだろうか…、人の好き嫌いがとにかく激しい人で、気分屋で、学歴や経歴はすごい人らしいのですが、なかなか気難しい人なので社員に恐れられていました。
で、私は仕事がまったくできないミス連発の不器用人間なのですが、それが逆によかったのか、そのワンマン社長に「映画でも観に行かねえか?」とか誘われたりして、仕事の後に映画を見てご飯を食べてとか、そんなことをしていたんです。そういう飲みの席ではもう必死で、お世辞を言いまくってとにかく機嫌を損ねないようにして、ワンマン社長の際限のない自慢話を聞きながら過ごしていました。しかしある時、何かワンマン社長の気に障ることをしてしまったのか、言ってしまったのか、それとも仕事ができなさ過ぎることがバレただけなのかもしれないのですが、急に目の敵みたいにされるようになってしまって、結局、その会社を辞めることになったんです。
正確に言うと、私がいた会社の関連会社から声をかけてもらって「あの社長、かなり大変らしいね。よかったらうちに来てみる?」みたいな感じで、ありがたく拾ってもらえたのでした。やはりそこもIT企業で、業務内容が今までと大きく変わるわけではなかったんですが、それが私のほぼ唯一の転職経験ということになるでしょうか。
前の会社でうまくいかず、それで別の会社に受け入れてもらったわけだからありがたいし、できれば頑張りを見せたいですよね。ただ私の場合、仕事の面で頑張りを見せることがまったくできないんです。そうなると、酒に頼るしかない。
上司から「今日終わったら飲み行く?」と誘われれば絶対に行って、そこで自分を知ってもらうというか、「まあこんな奴が会社にいてもいいか」ぐらいに思ってもらわないといけないわけです。仕事の能力面でアピールできることが何もないので必死です。
でも、その必死さが裏目に出てしまったことがありました。転職して間もなく、私が配属されることになった部署で、歓迎会を催してもらえることになりました。その部のリーダーがお酒を飲まない方だったこともあって「居酒屋とかでやるより、会議室で好きなものを飲んで食べて、気楽にやろう」と、仕事の後にそのまま会社で飲んだんです。つまみもほぼ食べずに、缶ビールをめちゃくちゃなペースで飲んだりしたはず。私にとってはもう、ここが一番大事というか、この飲み会で「こいつ、悪い奴ではなさそうだ」みたいに思ってもらわなければと気合を入れているので、自分のペースを崩し、完全に飲み過ぎてしまったんですね。気付いたら、なぜかビルの地下の真っ暗なトイレで寝ていて、「あれ?」と思ってオフィスのあるフロアに戻ると「ちょっと!どこにいたの!?」「探してたんだよ!」とみんなに口々に言われました。
「ったく、しょうがないなー!」みたいなムードになり、さらに、ちょうどその日に渡された業務用ケータイを私がなくしていることが発覚し、幸い、それは地下の暗いトイレで無事に発見されたのですが、完全にマイナスアピールでしかない1日になりました。「こいつ、大丈夫か!?」っていう。
これから転職をするという方にぜひ言いたい。「最初の飲み会では頑張り過ぎないほうがいい!」と。あれは失敗だったなー。パリッコさん、次回のテーマ、「気を遣う酒」でどうでしょうか!
スズキナオ:東京生まれ、大阪在住のフリーライター。著書に「深夜高速バスに100回ぐらい乗ってわかったこと」「家から5分の旅館に泊まる」他。「大阪環状線 降りて歩いて飲んでみる」がLLCインセクツより絶賛発売中。