自分が将来、相続する立場になったときのことを考えるとちょっとドキドキしますよね。とくに気になるのが“へそくり”のこと。自分が亡くなった後になってへそくりが見つかった場合、誰の財産になるのでしょうか。
そこで今回は、税理士法人レディング名古屋事務所所長で「相続専門税理士が教える 相続のめんどくさいが全部なくなる本」(ダイヤモンド社刊)の著者である前田智子税理士に、へそくりの行方や損しない方法をうかがいました。
■へそくりは誰のものになる?
へそくりとは、妻が夫の給与で生活費をやりくりした結果、余ったお金を妻名義の口座に預金するもの。このお金、妻が亡くなった後はいったい誰のものになるのか、前田さんは次のように述べています。
「もし、奥さんが一生懸命に自分の口座に貯めてきたとしても、税務署からは『夫のお金』と言われてしまう可能性が高くなります。夫から妻への贈与が成立しているかどうかがポイントとなります」
■贈与の基本を押さえておこう
「贈与って何?」と思う人がいるかもしれません。贈与とは、自分の財産を譲る契約のこと。前田さんに解説してもらいましょう。
「民法上、贈与は『あげます』と『もらいます』が成立していることがポイントになります。そして、もらった側がそのもらった財産を自分の自由に使えることが税務署側からは求められます。夫が、妻がこれまで口座に貯めてきたことを知らなかったとすれば贈与不成立。そのお金は本来の持ち主である夫のものとなります」
「また、夫が妻に対して『生活費の残りは君にあげるね』という発言をしたとして、妻が頑張って節約して貯めてきたとしましょう。妻は『夫があげるって言ってるんだから贈与が成立しているはず』と思いがちですが、過去の裁判例ではこのような渡し方は贈与と認められないという判決が出ています。税務調査では、贈与が成立したと立証できるだけの証拠が求められます」
■へそくりは生前贈与したほうが損しない?
そして、「奥さん名義のへそくりは、税務調査においては相続財産として認定しやすい財産といえるため、夫は追徴課税をされることも考えられます」と前田さん。
「こっそり行うへそくりはこのように損してしまうことが多いので、できればきっちりと生前贈与を行うことをお勧めします。税務調査で指摘されたとしても、贈与が成立していることの客観的な証拠さえあれば、妻の財産であると主張しやすくなります」
「例えば、毎日やりくりして貯めたお金を1年間集計して、それを夫から正式に生前贈与してもらうなどがあります。毎月数万円なら年間110万円に満たない金額となり、贈与税も非課税となります。『今年、節約して貯まった60万円を妻にあげるね』『ありがとう』とやりとりし、その貯まった60万円を妻の通帳に入れるようにすれば贈与も成立していますし自分の管理下にも置かれるので、贈与成立を第三者にも示すことができます。このやり方ではまったくへそくりではなくなりますが、後々のトラブルを避けるためにも贈与を成立させて、しっかり自分のお金という色を付けてください」
へそくりを自分の財産として我が子などに相続したいと考える場合にも、まずは「必ずしも自分の財産として認められるわけではない」ということは知っておきたいものです。そして、へそくりをへそくりではない形でカミングアウトすることも必要なのかもしれませんね。