下戸ってのはな、こんなもんじゃないんだよ! そんな心の叫びが沸き上がっていたようだ。
4月19日放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」第13回では、主人公の槙野万太郎(神木隆之介)が土佐の造り酒屋「峰屋」の当主として、明治14年(1881年)に東京・上野公園で開催された第2回内国勧業博覧会に出品。初めての東京に興奮する姿が描かれた。
峰屋では祖父に続いて父親も早くに亡くなっており、万太郎は幼子にして当主に。この回ではまだ19歳ながら峰屋の当主として博覧会に参加し、他の当主たちから驚かれていた。そのなかで見過ごすことのできない場面が展開されたという。
「万太郎には灘や山形から集まった様々な酒蔵の当主たちが、飲み比べを挑むことに。最初は遠慮していた万太郎ですが、ついには断り切れずに次々と杯を空けました。しかし生まれつきの下戸である万太郎は酔っぱらってしまい、視界が歪むことに。自分が下戸だと白状したうえで会場の外に逃げ出し、しまいには榎の樹に登るという奇行をしでかしていたのです」(テレビ誌ライター)
制作側としては下戸の万太郎が無理に酒を飲んだせいで、樹に登りたい欲望を抑えきれなくなったと表現したつもりなのだろう。だが本当の下戸に言わせれば、こんなシーンはそもそもあり得ないというのである。
「まず指摘したいのは、下戸は酔っぱらうことがないということ。下戸にとってアルコールは毒物でしかないので、酔いが回る以前に身体が拒否反応を起こし、強烈な吐き気や胃の痛み、頭痛などに襲われます。しかし作中では万太郎がすっかりご機嫌に酩酊し、奇行を働くことに。これでは『すぐに酔いが回る人』でしかなく、下戸から言わせればとんでもない描写ですね」(下戸のライター)
下戸はアルコールの匂いを嗅いだだけでも吐き気を催したりするもの。さすがに酒屋の当主である万太郎は酒の匂いには多少慣れているかもしれないが、酒を飲めないことには変わりがなく、今回のように何杯も日本酒を一気飲みしてしまっては、強烈な不快感に襲われることは確実だ。
作中では「下戸(ゲコ)だからカエル」とダジャレにしていたが、実際にはゲエゲエと吐いてしまうところ。ゲコがゲエゲエとゲロを吐くという、シャレにならない絵面になってしまうのである。
「万太郎が寿恵子(浜辺美波)の美しさに魅入られ、『あんなに可愛い人が、この世におるがじゃのぉ』と舞いあがる姿は、単なる酔っ払いに過ぎません。何度も言いますが下戸が酒を飲んだら、あまりの苦しさゆえ美女に目を奪われることもありえないのです。今回の描写は下戸の立場から見たら本当に不愉快であり、NHKでは視聴者に対して下戸に酒を飲ませることを奨励しているのかと、強い怒りすら感じます。本当に本当に不愉快です」(前出・下戸のライター)
酔っぱらった万太郎が樹から落ちるも無傷で済んでいたシーンに至っては、過度な飲酒の危険性さえ無視するという、公共放送には許されることのない描写だと断言せざるを得ない。これで万太郎を真似して酔っ払いが木登りした日には、NHKではなんと釈明するつもりなのか。
ともあれ制作側に下戸がいなかったのか、もしくは酒好きの責任者が下戸らしい描写を避けたのか。万太郎の酩酊ぶりはNHKの制作姿勢が問われる、問題シーンだったと糾弾されてしかるべきだろう。