この場面、ずいぶん前に観たことがあるような…。そう驚く視聴者も少なくなかったようだ。
7月20日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第94回では、ヒロインのアキ(能年玲奈)に親友のユイが「サインして」とねだる姿が映し出された。その場面で実に3カ月ぶりの伏線回収が描かれたという。
アイドルグループ「GMT6」に加入したアキは2010年の正月、岩手・北三陸に帰省。父親の介護や母親の蒸発によりアイドルになる夢を諦めたユイと衝突していた。
気持ちが通じ合っている二人はお互いに相手を傷つけたと思っており、ユイはアキに謝罪。「(アイドルに)冷めたんじゃなくて、諦めた」と正直な気持ちを告白しつつ、「その代わり、ちゃんと見てるから。やってダメなら、また帰ってきなよ」とアキを激励したのだった。
「ここでユイは『サインして』と色紙を差し出し、アキはもう書きなれたであろうサインをスラスラと書いていました。その姿にユイは『あるんだ…』と笑っていましたが、この場面こそが伏線回収だったのです」(テレビ誌ライター)
もともとアイドル志望だったのはユイのほうであり、その足掛かりとして彼女はミス北鉄に就任。第18回で描かれた地元の夏まつりでは大きな山車に乗って街を練り歩いていた。
アキは当時、東京から転校してきたものの、海女になる夢も断たれかけており、心が折れそうになっていた。だが親友の活躍に勇気をもらい、「今日のユイちゃん見てたら何か吹っ切れた。勇気もらった気がする」と言いながら、ユイに「サインけろ」とうちわを差し出したのである。
「ユイがスラスラとサインを書くと、アキは『あるんだ』とびっくり。アイドル志望のユイは自分のサインを考えていたものの『人に頼まれて書いたの、初めて』と明かしていました。そのサイン書きが3カ月の時を経て、アキとユイの立場を入れ替える形で再現されたのです」(テレビ誌ライター)
お互いにサインをねだるのも一緒なら、お互いに「あるんだ」と驚いたところも一緒だった。その一方でユイは初めてのサイン書きだったのに対し、アキは現役アイドルとしてさんざん書き慣れているという違いもあった。
アキが「ユイちゃんへ」との宛書きを添えたのも、現役アイドルとしての通常運転だったはず。そんな些細なところに、時の流れが浮き彫りになっていたのである。
そんな第94回にはもう一つ、別の伏線回収があった。それはアキの母親・春子(小泉今日子/有村架純)が若かりしころ、鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の代役として「潮騒のメモリー」をレコーディングしたことが明かされたくだりだ。
マネージャーの荒巻(古田新太)は春子に、ひろ美の“影武者”になるよう頼みこんでいた。その影武者というキーワードは第21回に初登場した単語。新人海女のアキが、自分の代わりにウニを獲ってくれた安部ちゃん(片桐はいり)のことを「落ち武者だべ!」と評した場面だった。
それは影武者の言い間違いだったが、その後は安部ちゃんの隠れたあだ名が落ち武者となっていた。そんな「影武者」までが実は伏線だったとは。「あまちゃん」の作中にはまだ数多くの伏線が張り巡らされているのかもしれない。