彼女の目に映ったのは、自分がなりたかった姿、だったのかもしれない。
9月1日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第131回では、春子(小泉今日子)がアキ(能年玲奈)へのお手本として、自ら「潮騒のメモリー」を歌唱。その春子はアキの歌唱を見守っている際に、若き日の自分自身が歌っている姿を目にしていたのだった。
若き日の春子はこれまで回想シーンのほか、アキの夢や妄想のなかに登場していたもの。それが今回は春子自身が、自分の幻影を見ることとなった。よもや娘のアキが、若き日の自分にそっくりというわけでもなさそうだが…。
「春子の目に映ったアキは『若き日の自分がなりたかった姿』を体現していたのではないでしょうか。誰かの代役としてではなく、自分自身としてレコーディングする。それは歌手を目指していた春子の夢でした。その夢を25年が経ったいま、娘のアキが代わりに叶えてくれたのです」(テレビ誌ライター)
春子が事務所の社長としてアキを売り込むのは、自分が叶えられなかった夢を託している部分も大きいだろう。そのアキはいまや映画のヒロインを務めるなど、春子の夢を大きく超えた活躍を果たしている。
ただ春子が目指していたのはアイドル、そして歌手であり、女優ではなかった。アイドルとしては挫折した形のアキだが、タレントとして頭角を現し、ついには映画のヒロインに上りつめる。その姿を社長として見守っている最中には、アキにかつての自分を重ね合わせることもなかったことだろう。
「それが今回は、かつて自分が鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)の影武者としてレコーディングした『潮騒のメモリー』を、アキが歌うことに。自分が歌った楽曲を娘がレコーディングしている姿に、若き日の自分を重ね合わせるのも無理はありません。そして子供は親を超えていくもの。春子自身が果たせなかった『自分の名義で歌を出す』という夢を娘のアキが実現する姿を見て、『潮騒のメモリー』に対して抱いていた忸怩たる思いもまた、昇華されたのではないでしょうか」(前出・テレビ誌ライター)
多くの視聴者が、まるで最終回みたいだと感心した今回。春子はアキのおかげで、次の段階に歩み出したに違いないだろう。