その嫌われぶりはもはや、災厄のレベルに達していたのかもしれない。
1月26日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」 第81回では、ヒロインのスズ子(趣里)と愛助(水上恒司)の結婚を認めてもらうべく、マネージャーの山下(近藤芳正)がトミ(小雪)を説得しにいく場面があった。
村山興業の社長を務めるトミは、息子で後継者の愛助を溺愛。愛助とスズ子の結婚をしぶしぶ認めるも、スズ子には歌手を辞めるとの条件を突き付けていた。ところがその条件を果たす前にスズ子が妊娠。すっかり態度を硬化させたのも無理のないところだろう。
愛助を幼い時から世話してきた山下は、昔話を織り交ぜながらトミを説得。しかしトミはどうやら、スズ子のことを徹底的に嫌っているようで、その態度が言葉の節々に表れていたというのである。
「トミはのっけから『あの“おなご”とは終まいや』とキッパリ。スズ子が歌手を辞めてもいいと言っていることを村山が説明しても『あの“おなご”が歌手を辞める言うても、もうないで』と取りつくしまもありません。そのうえで自分は筋を通してきたと主張し、結婚を許可する前に妊娠したことにより『こうなった以上、あの“おなご”はありまへんけどな』と最後通牒を突き付けたのです」(テレビ誌ライター)
視聴者からは、たしかにスズ子も無責任だけど、それ以上にあなたの息子(愛助)が無責任なのでは? との声も漏れ伝わっている。とはいえ戦後間もない時期であり、当時はまだ家制度が機能している時代。結婚を巡って親の意向は絶対だ。
そのように母親としても、村山興業の社長としても絶対的な権威を持つトミの言葉には、スズ子に対する激烈な怒りがこもっていた。それは決して「福来スズ子」という名前を口にしなかったところに表れていたのである。
視聴者から<スズ子のことを「あのおなご」としか呼ばないな><あのおなご呼ばわり、感じ悪い>といった感想もあがっている。令和の現在から見たらトミの態度には眉をひそめてしまうところだが、当のトミにとっては名前を口に出すのもおぞましいほど、スズ子は忌むべき存在になってしまっていたようだ。
「その忌みっぷりは『ハリー・ポッター』シリーズに登場する悪の魔法使い・ヴォルデモート卿が、周りから『名前を呼んではいけないあの人』と呼ばれていたことを思い起こすほど。トミ自身も以前にはスズ子の名前を口にしていたことから、妊娠を知ったことでスズ子への嫌悪感が増幅したことを如実に表していました」(前出。テレビ誌ライター)
そんなトミに対して、作曲家・羽鳥善一(草彅剛)の妻である麻里(市川実和子)は、普通に「スズ子さん」と呼びかけていた。この鮮やかな対比は、スズ子の置かれた立場がいかに相対的なものかを象徴していたのではないだろうか。