二重の意味で、視聴者の頭には「?」が浮かんでいたようだ。
2月8日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第90回ではついに、ヒロイン・スズ子(趣里)の代表曲である「東京ブギウギ」が登場。いよいよレコーディングに挑むこととなった。ところがそのシーンに謎の演出が施されていたのである。
スタジオにはマネージャー山下(近藤芳正)のアイデアで米兵を招待。最初は懐疑的な様子だった米兵たちだったが、いざスズ子が歌い出すと、本場のブギウギに負けずとも劣らない歌声に熱狂。踊りながら「家に帰ったようだ!」などと大興奮していた。
「本来ならこの回のハイライトとなるシーンでしたが、放送ではなぜか歌声もメロディもないサイレントに。やっと『東京ブギウギ』が聴けると楽しみにしていた視聴者の期待を裏切る形となったのです」(テレビ誌ライター)
このもったいぶった演出に、一部からは<斬新すぎる>といったポジティブな声もあったものの、ほとんどの視聴者は<どういうこと?>と、意味不明な演出にガッカリした様子だった。
しかも「東京ブギウギ」をお預けにするのが狙いかと思いきや、今回の終盤にはピアノの伴奏で同曲の稽古を行う場面も。<結局、歌っちゃうんかーい!>との呆れ声があがっていたのも無理はないだろう。
そんな首尾一貫しない謎演出に加えて、このレコーディング場面では史実の改変も浮き彫りになっていた。しかもその改変が決して、功を奏したとは思えないというのである。
「スタジオに集められた米兵たちはスズ子の『楽しんで!』という呼びかけにも無言のまま。しかし史実はまったくの逆で、実は米兵たちのほうが勝手にレコーディングスタジオに押しかけ、現場はパーティーさながらのお祭り騒ぎとなっていたのです」(テレビ誌ライター)
スズ子のモデルである歌手の笠置シヅ子は作中で描かれた通り、昭和22年9月に「東京ブギウギ」をレコーディング。この時、進駐軍に接収されていた隣のビルから米兵たちが「日本人がブギをやるのか」と面白がってスタジオに押し寄せ、レコード会社のスタッフが困惑するなか、笠置はその歌声で米兵たちを魅了したのだった。
いずれにせよ、小柄な日本人女性が大きな米兵を圧倒する歌声を披露し、本場のアメリカ人を驚かせたことに変わりはない。それならむしろ史実に沿った物語を展開したほうが、「東京ブギウギ」がどれだけパンチの効いた楽曲だったのかを視聴者に伝えられたのではないだろうか。
レコーディングをサイレントにした謎演出と、米兵が最初は無言だったという史実改変。その狙いが一体何だったのか、視聴者は煙に包まれた思いを抱いていたようだ。