りつ子の勘違いはともかく、スズ子の反論はおかしいのでは? 首を傾げる視聴者も少なくなかったようだ。
2月21日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第99回では、ヒロイン・スズ子(趣里)と茨田りつ子(菊地凛子)の対談が実現。ゴシップ記者・鮫島(みのすけ)の思惑通り、二人の会話はヒートアップすることとなった。
事の発端は、鮫島のでたらめに乗せられたりつ子が、スズ子に関して「もう終わり」と語ったことにあった。その点についてスズ子が本心かどうかを尋ねると、りつ子は認めたうえで「なぜ歌だけで勝負しないの?」と反問。「映画にうつつを抜かして、歌を極めたつもりにでもなっているんじゃないの?」と問いただしたのである。
「ここでスズ子は『そんなことありまへん!』と大興奮。歌を捨てたわけではないと反論しました。しかしスズ子の来歴を客観的に見れば、そもそも彼女が“歌だけ勝負する”タイプの芸能人でないことは明らか。この問答自体、成立しないはずなのです」(芸能ライター)
本作の視聴者であれば、スズ子がもともとは梅丸少女歌劇団の出身であり、梅丸楽劇団にスカウトされて上京したあとも、ミュージカル仕立ての舞台で人気を博していたことはよく知っているはずだ。
スズ子が全身を躍動させて踊りまくるダイナミックなステージも、歌劇団で鍛えたダンスがベースになっている。スズ子のモデルである笠置シヅ子も大阪松竹少女歌劇の出身で、スズ子の送ってきた芸能生活は笠置のそれをなぞっていることは明らかだ。
その流れを見れば、スズ子が「歌一本」のタイプでないことは明らか。音楽大学の声楽科出身で、まさに人生を歌一本で切り拓いてきたりつ子とは、出自も立ち位置もまったく異なっているのである。
「スズ子がヒットさせた『ジャングル・ブギー』も、黒澤明監督の映画『醉いどれ天使』の劇中歌であり、作中では描かれていなかったものの、笠置は同映画にて“ブギを唄う女”の役で出演しています。それゆえスズ子にとって映画に出演することはむしろ、彼女の芸能生活では本筋と言えるもの。そんなスズ子を間近で見てきたはずのりつ子が『映画にうつつを抜かして』なんてセリフを口にするはずもありません」(前出・芸能ライター)
りつ子のモデルである淡谷のり子は、本作と同様に笠置と親しく、ライバル関係でもあった。その二人が歌を巡って対立していたといったエピソードは伝わっておらず、今回描かれた対談もドラマの創作要素だろう。
そこでなぜ、スズ子とりつ子を対立させる必要があるのか。そもそも当時のスズ子は日本中を熱狂させていた大スターのはずなのに、作中での描かれ方はせいぜい数曲がヒットしたぽっと出の新進芸能人といった扱いだ。
しかしモデルの笠置シヅ子はスター中のスターであり、三島由紀夫や大阪タイガースの藤村富美男らをも魅了していたほど。なぜそのスターぶりを正面から描かず、りつ子との確執を創作するのか。視聴者も制作陣の狙いがまったく理解できずに当惑していることだろう。