今回は大人の遠足である。参加者は本連載を通じて友人になった、やぐら(中世の横穴式墳墓)好きの姐さんや無人島のおじさんガイド、コーヒー好きのカメラマン、物好き編集者など計5名。やぐら姐さんの「すごい切り通しがあるのよ」と誘われて、神奈川県鎌倉市までやって来た。
切り通しは人や物資の通行のために、山や丘の一部を開削した道のこと。三方を山に囲まれた鎌倉市は特に多い。
JR大船駅東口を出発。先頭はやぐら姐さんが務めるが“得意技は迷子”という筋金入りの方向音痴なので、あとに続くオイラたちも内心はヒヤヒヤ。最初の目的地・常楽寺に着くと、誰よりも本人がホッとしていて笑ってしまった。
常楽寺は1237年に鎌倉幕府三代執権・北条泰時が義母の供養のために建立した粟船御堂が始まり。その後、泰時の法名から現在の寺号に改名した。歴代住職の中には建長寺開山・蘭渓道隆がいる。
茅葺きの山門の先に待つ仏殿には御本尊・阿弥陀如来、脇侍の観音・勢至菩薩の三尊仏が安置され、天井には狩野雪信が描いた龍の図が見られた。
本堂裏側の北条泰時の墓を参拝して、裏山に上ると泰時の娘、あるいは源頼朝の娘・大姫のものと伝わる姫宮塚や、木曽義仲の子・義高のものと伝わる塚や墓石もあった。
常楽寺から徒歩10分ほどの多聞院、大船熊野神社を経て、高野公園へ。お目当ての切り通しは目の前だが、ここで昼食にした。レジャーシートを広げて車座に座り、プシュッと缶ビールを開けて乾杯したり、自家焙煎コーヒーを抽出して味わったり。お子様の遠足とはひと味違う。
公園から30メートルほど坂を下り、左側に民家の前から樹林へ続く上り坂が見えたら、そちらに進む。ほどなく切り通しが始まった。
地元では“高野の切通”と呼ばれ、道幅は大人2人がやっとスレ違えるくらい。両側に高さ3~4メートルの絶壁が120メートルほど続いている。鎌倉市を代表する7つの切り通し「鎌倉七口」と比較しても遜色はない。こんな切り通しが住宅地の中に溶け込んでいるのだから驚く。
登山道も同じだが、上りと下りでは印象が異なる。往復しながら、何枚も写真を撮り、鎌倉武士の気分を味わった。この先、JR北鎌倉駅へ抜けることもできるが、オイラたちは大船駅へ。大人の遠足を終えたらやっぱり大人の反省会もしなくてはならない。
内田晃(うちだ・あきら):自転車での日本一周を機に旅行記者を志す。街道、古道、巡礼道、路地裏など〝歩き取材〟を得意とする。