元NHKアナ・中村克洋「人生を動かす“顔”パワー」講座/顔のサイエンス① 私は“顔のない”アナウンサーでした
■アナウンサーというプレッシャー
私は、NHKやテレビ朝日などで32年間、アナウンサーをしてきましたが、スタートは「“顔のない”アナウンサー」でした。つまり私のNHKでの初任地は、ラジオ局だったのです。
1年後、ラ・テ局(ラジオとテレビがある放送局)に転勤。そこで、初めての「テレビ体験」をして、“顔(表情)”のもつ強烈なインパクトに驚きました。想像してみてください。ふだんの私たちの会話でも「電話」と「対面」の会話を比べるとそのインパクトはずいぶん違いますよね。“言葉”だけで相手の状況・心情を判断するのと、“顔”を見て相手の反応も合わせて判断するのとでは、大違いです。
それが「ラジオ」と「テレビ」 となるとそれこそ大変、相手は膨大な数(テレビ全国放送は視聴率1%が単純計算で116万人)です。しかも“相手の顔”は見えない。つまり、相手の反応がわからないのです。そんな環境で仕事をするアナウンサーは、それまでの人生で、まったく経験のない異常な世界に“顔をさらす”ことになるわけです。
■“表情”コミュニケーション
人間が、他の動物と大きく異なる特徴の一つは、「コミュニケーションにおいて、自分の感情を“顔の表情”で表すことができる」ことです。私はこれを「“表情”コミュニケーション」と言っています。“表情”コミュニケーションは、“イメージ”でのコミュニケーションですから、“言葉”コミュニケーションとは比べものにならない膨大な情報量をもっています。特に、感情や情動に関するコミュニケーションは優れていて、人は、言葉のない時代、他の生物に比べて著しく、この“表情”コミュニケーション能力を発展させたのです。
表情を作るために、人間は顔面の「表情筋」を高度に発達させました。(ヒトの表情筋については次回詳しくお伝えしますが)30種類以上の「表情筋」を総動員して、より複雑で高度な“表情”コミュニケーションを行うようになったのです。“表情”は“言葉”以上に、人類の進歩に強力に働いているのです。
■「いつも鏡で確認しろ」
私たちアナウンサーは、テレビに“顔が出ている状態”を「顔出し」と言って特別扱いしています。それには理由があります。「顔は、“出す”ほうのアナウンサーにとっても、“見る”ほうの視聴者にとっても、ものすごいインパクトを持っている」からです。
“表情”コミュニケーションは、“多種多様な喜怒哀楽”を瞬時に伝えることができ、それは“言葉”ではできません…だから、こんな指導をしてくれる先輩がいました。「自分の動線、いたるところに鏡を置いて、常に顔の“表情”を確認しろ」 「ベストな“表情”コミュニケーションを鏡と相談しろ」と言うのです。思えば、私のアナウンサー人生は、「“顔の不思議なパワー”と格闘する日々」だったような気がします。もちろん、ここでいう顔とは、その“つくり”、つまり、造作の事ではありません。顔の“表情”のことです。
■顔には「特別な能力」がある
アナウンサーをやめた後、大学での17年にわたる“表情”コミュニケーションの研究で見えてきたのは、顔の持つ「特別な能力」でした。脳科学、心理学、医学、生物学、(言語・身体)表現学などの知見をもとに研究していくうちに、「顔を使えば、健康や性格、運命や人生まで変えられる」「夢も叶う」ということがわかってきたのです。
“人間の顔”には素晴らしい能力があったのです。私は今では「顔は“人生のコントローラー”だ」と思っています。この連載は、そんな私の顔研究の集大成、たどりついた“究極の生き方”なのです。
●プロフィール
なかむら・かつひろ1951年山口県岩国市生まれ。早稲田大学卒業後にNHK入局。「サンデースポーツ」「歴史誕生」「報道」「オリンピック」等のキャスターを務め、1996年から「ワイド!スクランブル」(テレビ朝日系)ほか、テレビ東京などでワイドショーを担当。日本作家クラブ会員。著書に「生き方はスポーツマインド」(角川書店)、「山田久志 優しさの配球、強さの制球」(海拓舎)、「逆境をチャンスにする発想と技術」(プレジデント社)、「言葉力による逆発想のススメ」(大学研究双書)などがある。講演 「“顔”とアナウンサー」「アナウンサーのストップ・ウォッチ“歴史館”」「ウィンウィン“説得術”」
