【ばけばけ】髙石あかり“トキ”がトミー・バストウ“ヘブン”の女中になる決意に至るまでの圧巻の演技
史実を知っているからなんとか視聴していられたものの、11月7日放送のNHK朝ドラ「ばけばけ」第30話は胸が痛くて苦しかった。それはつまり、髙石あかり演じる主人公のトキに、それだけ共感していたからだろう。
実の母であるタエ(北川景子)が、物乞いをしているだけでも心が痛むのに、以前は施しを受けても頭を下げることができず、施しなどいらないと返していたタエが、とうとう頭を下げて施しを受けている姿は、トキがヘブン(トミー・バウトウ)の女中になろうと決意するに足りる“事件”だったのではないだろうか。
ヘブンの家の「住み込み女中」になるということは、遊女のなみ(さとうほなみ)が言っていたように、「ラシャメン(※外国人相手の妾となった女性の蔑称)」になる覚悟が必要だったことはよくわかる。「住み込み女中」は「夜は同衾」することまでが仕事だから、1カ月に20円もの給金がもらえるのだと考えるのは当然のことだろう。
史実を知っているから「おトキちゃん安心して」と心の平穏を保っていられるが、人に使われる仕事をしながら、タエには「人を使う仕事を見つけたよ」と嘘を言って働くことさえできない三之丞(板垣李光人)から暮らしの実情を聞き、タエが施しを受けて頭を下げる姿を見たら、「ラシャメン」になることしか選択肢がないように、トキなら当然思うだろう。タエが施しを受けて頭を下げている間にその前を走り抜け、通り過ぎた後に見せた表情で「ラシャメンになる」と覚悟したことは、セリフがなくても視聴者にはひしひしと伝わってきたのではないだろうか。トキの感情変化を見事に演じた髙石には、拍手を贈りたい。
たとえ実情は「ラシャメン」でなくても、世間からはそう思われてしまう未来も史実として知っているが、とりあえず早くトキにはホッとしてほしい。
(森山いま)
