フットボールアワー・後藤輝基さんが、あるテレビ番組で「公衆トイレにある『一歩前へ』という言葉に勇気づけられていた」という話をしていました。男性トイレには個室だけじゃなく立ったまま用をたせる便器があり、離れたところから用をたすと便器の周囲に飛び散って汚れることから、目に入る場所に「一歩前へ」と書かれていることが多いのですが、後藤さんはそれを「人生へのエール」と受け取っていたそうです。
このように、間違った解釈で広まってしまった名言をご紹介しましょう。
■「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」福沢諭吉
著書「学問のすゝめ」の冒頭の文として広まっています。「すべての人類は皆、平等である」と誤解されていますが、続きを読むと「生まれた時は平等なのに、賢い人と愚かな人、貧富、身分の差という違いが生じてしまうのはなぜか。それは学ぶかどうかの違いだ」と説いているのです。
■「天才とは1%のひらめきと99%の努力である」トーマス・エジソン
こちらも、さも「大切なのは努力」というニュアンスで誤用されがちですが、「1%のひらめきがなければ99%の努力はムダになる」という思いでエジソンが言った言葉なのです。
■「健全なる精神は健全なる肉体に宿る」ユウェナリス
古代ローマの詩人によるこの言葉は、「健全な肉体にしか、健全な精神は宿らない」というニュアンスで、昭和時分に運動部系のシゴキ用の檄として誤用されていたのですが、「健全な肉体なのだから、精神も健全だったらいいのになぁ」という現実への嘆きを謳ったものだとか。
■「お客様は神様です」三波春夫
大御所・三波春夫の名言として有名ですが、オフィシャルサイトに「真意とは違う意味に捉えられたり使われたりしていることが多くございます」と誤用についての掲載があります。つまり「ステージにいる演者から見た、客席の聴衆のこと」であり、「商店や飲食店の客のことではない。営業先のクライアントでもない」とのこと。「歌うときは、あたかも神前で祈るときのように、澄み切った心でなければ完璧な芸を見せられない」という旨の言葉だったものが、いまや「クレーマーの常套句」に使われているのは嘆かわしいことです。
後世の人は、都合よく解釈したり、つい美談に仕立てたくなるものですが、本当の意味を知ると、より深く心に響くのではないでしょうか。先人の名言を胸に刻んで、私たちも「一歩前へ」歩みたいものです。
(摘木みなみ)