計算や生活の仕方は教えられても、思いやりの心や相手を傷つけない話し方などは、親としてどう教えたらいいか迷ってしまう──子どもたちの教育現場にいると、保護者からこのような相談をいただくことがあります。
「あいつ、計算できないんだぜ。ばっかじゃねーの!」「○○ちゃん、夜のトイレが怖いんだって。うふふふ!」。これらのような子どもたちの悪気ない会話には、ドキッとさせられることがありますよね。うちの子、こんなことばかり言っているとみんなに嫌われるのでは……と思い、「そういうことは言っちゃダメ!」と禁止していませんか? 実は、このような伝え方には思わぬ“落とし穴”があるのです。
■親の前でだけ言わなくなる
「そういうことは、ダメ!」と頭ごなしに禁止すると、子どもは本音を聞いてくれないのかと諦め、安心して言える友だちにだけ言うようになります。その結果、親の前では言わないけれど、子どもたち同士では言い続けるケースが多いのです。
■言わない方がいい理由を伝える
では、どうすればよいのでしょうか。まず最初に伝えたいことは、「1度の経験や失敗でその人のことを決めつけてはいけない」ということだと思います。「あなたも昔○○ができなかったけれど、たくさん練習してできるようになったよね」「△△は得意だけど、たまに失敗することもあるでしょう?」など、誰でも失敗することがあることや、その1回で人生は決まらないということを、自身の経験から納得させてあげることが大切です。
そのうえで「今はできる○○について、できないなんてバカって言われたら、どんな気持ちになる?」と、子どもに考えさせてあげてください。1回の結果で自分を判断されては嫌だ、ということを感じ取れる子は、相手へも同じように接しようと思えるようになります。
■“本音と建て前”を教えるかどうか
また、「『言われて嫌なことは思っている分にはいいけれど、相手には言ってはいけないよ』などと、本音と建て前の区別をつけさせることはよいのでしょうか」というご相談をいただくこともあります。これは、相手に嫌なことを言わないようにするという意味では、効果のあることだと思います。とはいえ、「思うことは自由」と伝え続けることは、相手を見下して生きることにも繋がりますので、まずは「人にはできないことや不得意なこと、怖いことがある」ということを伝えてあげたいですね。
コミュニケーション力や思いやりの心は言葉で説明しにくいですが、親の前でだけ行動を変えるのではなく、自分で相手との関係性をよくしようと思えるよう、子どもには渡してあげたいですよね。正解があるわけではありません。子どもは大人の本音を聞きたいと思っている生き物です。「人として、お母さん(お父さん)はこう生きたいと思っている。それはね……」と、ぜひ本気で語ってあげてください。
(Nao Kiyota)