もはやご都合主義すぎる展開に、視聴者も慣れてきたのかもしれない。
5月12日放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」第30回では、主人公の万太郎(神木隆之介)が菓子屋の娘・寿恵子(浜辺美波)と偶然の再会を果たす場面が描かれた。
明治14年に東京で開催された内国勧業博覧会の会場で万太郎は、出店していた寿恵子の美しさに魅入られていた。翌明治15年、東京大学で植物学を研究するために上京した万太郎は、大学にほど近い根津のボロ長屋を借りることに。引っ越しで世話になった長屋の人たちにお礼の菓子を買うべく、近所の菓子屋を訪れていたのだった。
「その菓子屋に寿恵子がいるのではと淡い期待を抱いていた万太郎ですが、対応したのは男性の店員。菓子を買ったあと、店の前で『こんなに大きな街じゃき、会うがは奇跡かのう』と、当たり前のことをつぶやいていました。しかしその店・白梅堂はまさに寿恵子の家が営んでいる菓子屋。あまりのご都合主義な展開に視聴者は呆れつつも、もはやそういう物語なんだろうと納得していたようです」(テレビ誌ライター)
万太郎は植物学者の牧野富太郎博士をモデルにしており、牧野博士自身、東大に通う道にあった菓子屋の娘を見そめている。下宿や菓子屋の場所こそ史実とは異なるものの、それは脚色の範囲だろう。
ただ寿恵子の人柄に関しては、史実とは大きく異なっているというのだ。そこを端折っているところはやはり、ドラマならではのテンポ感を優先したからだろうか。
「牧野博士が見そめた寿衛は15歳で、その年ごろの娘は男性と話すことに慣れておらず、牧野博士が話しかけようとしても恥ずかしがって逃げていたそうです。そのため当時働いていた印刷所の主人に仲立ちを依頼し、寿衛の母親に話を通すことでようやく、二人は付き合うことができたのでした」(前出・テレビ誌ライター)
そのほうが寿恵子の母親を演じる牧瀬里穂が話に関わってくるので好都合にも思えるが、まずは万太郎と寿恵子のなれそめをスムーズに描くことを優先したのだろう。
史実を知らなければ、そんな偶然の出会いも乙なものだろう。しかし牧野博士と寿衛の夫婦生活を振り返ると、果たして万太郎と寿恵子の結婚生活がどう描かれるのか、心配になってくるというのだ。
「なにしろ牧野博士には金銭感覚というものが備わっておらず、研究のためには借金してでも高価な資料を買っていました。そのため牧野家の家計は常に火の車で、実家の造り酒屋から仕送りが得られなくなってからは相当な窮乏生活を強いられていたようです。果たしてそんな貧乏を『らんまん』でも描けるのか。花のように美しい浜辺美波が貧乏一家の妻を演じるのかどうか、むしろ興味が高まりますね」(前出・テレビ誌ライター)
金に困る浜辺の姿はどうにも想像がつかないもの。そこをしっかりと描いてくれるなら「らんまん」も奥の深いドラマとなってくれそうだ。