5月22日放送のNHK連続テレビ小説「らんまん」第36回では、菓子屋・白梅堂の一人娘である寿恵子(浜辺美波)が、鹿鳴館に行きたいと母親のまつ(牧瀬里穂)に懇願する場面があった。
鹿鳴館に行けば華族や異人にも会えると主張する寿恵子に対し、柳橋で評判の芸者だったまつは「あんたは妾の子でも、れっきとした彦根のお武家の娘なんだ」とぴしゃり。くだらない考えを持たないように諭していた。
だがまつが語った「妾の子」という設定は、史実とはまったく異なっているというのである。
「寿恵子のモデルは、植物学者・牧野富太郎博士の妻・寿衛子です。寿衛子の父親・小澤一政は元彦根藩士で、明治維新後は陸軍に勤務。母親は京都出身で、寿衛子は東京・飯田町の邸宅で裕福に暮らしていました。その後、父親が亡くなると家が没落し、邸宅も手放すことに。寿衛子の母親は小さな菓子店を開き、そこで牧野博士と寿衛子が知り合っていたのです」(週刊誌記者)
このように寿衛子は決して妾の子ではなく、れっきとした「お武家の娘」だ。そもそも牧野博士が寿衛子に一目ぼれしたのは明治20年(1887年)ごろの話であり、明治16年に鹿鳴館が開館したあとのこと。そういった前後関係も「らんまん」ではなし崩しにされている。
本作では牧野博士をモデルとしつつ、作品の内容はあくまでオリジナルだとしている。そのため創作要素が含まれるのは当然のことだが、それではなぜ寿恵子は妾の娘という設定になったのか。それは主人公の万太郎(神木隆之介)に理由があるというのだ。
「本作では万太郎の祖母・タキ(松坂慶子)が、万太郎と姉の綾(佐久間由衣)に『夫婦になれ』と命じていました。綾は実姉ではなく、万太郎とは従姉妹にあたるタキの孫だったからです。その話を断って万太郎は上京していましたが、実はこのくだり自体、牧野博士の結婚生活をモチーフにしていることは明らかです」(前出・週刊誌記者)
というのも牧野博士は東京大学を目指して上京する前に、2歳年下の従姉妹と結婚。その妻が実家の造り酒屋で若女将となっていたのである。
だが牧野博士は一回目の結婚を不本意としており、上京後に寿衛子に一目惚れ。同棲生活を送り、事実上の夫婦生活を営んでいた。後には正式に離婚し、あらためて寿衛子と結婚している。
とはいえ朝ドラではそんなドロドロとした結婚生活を描くわけにもいかないもの。そこで「姉だと思っていた従姉妹と結婚させられそうになった」のエピソードを仕立てることで切り抜けたのだろう。
「しかし、これでは万太郎が身ぎれいになってしまい、寿恵子との結婚に何ら障害がありません。そのため寿恵子のほうに『妾の子』や『鹿鳴館に憧れる』といった属性を付け加えることで、二人の結婚が一筋縄ではいかないようにしたのではないでしょうか」(前出・週刊誌記者)
制作側の都合で余計な属性を背負わされることになった寿恵子。もっとも、里見八犬伝に入れ込む腐女子ぶりが描かれたことで、寿恵子を演じる浜辺のファンにとってはむしろ、この設定変更は大歓迎なのかもしれない。