あらためて数字を振り返ると、意外な現実が見えてくるようだ。
再放送が好評のNHK連続テレビ小説「あまちゃん」では、岩手・北三陸に住むヒロインで海女のアキ(能年玲奈)がいよいよ、アイドルに転身しそうな気配を見せている。同級生のユイ(橋本愛)はアメ横女学園の3期生オーディションを受けたいと熱望しており、6月9日放送の第59回では家族と大ゲンカする様子も描かれた。
琥珀職人見習いの水口(松田龍平)は、自分の正体がスカウトマンであることをアキに明かし、アキの心も揺れ動き始めることに。アキの今後に視聴者が期待を膨らませる一方で、2013年の本放送当時には決してこの展開を歓迎する視聴者ばかりではなかったというのである。
「放送開始当初の『あまちゃん』では、ヒロインのアキがウニを手に微笑んでいるポスターが印象的でした。そこには『オラ、この海が好きだ』とのコピーが踊っており、視聴者はアキが海女として一人前に成長していく物語だと思っていたものです。ところが途中からアイドル要素が強くなり、『アメ横女学園』だの『GMT47』など、アイドルに興味のない人にはちんぷんかんぷんの単語が続出。それもあって当時は《アイドルのことは分かんね》と離脱してしまう朝ドラファンも少なくありませんでした」(テレビ誌ライター)
放送終了後には「あまちゃんロス」が沸き起こり、2013年末の第64回NHK紅白歌合戦ではあまちゃんコーナーが話題を呼ぶなど、すっかり時代を席巻した感のある「あまちゃん」。だが視聴率をあらためて振り返ると、意外な数字となっている。
シリーズ平均視聴率は20.6%を記録。前作の「純と愛」(17.1%)からは大幅に向上したものの、前々作の「梅ちゃん先生」(20.7%)や、次回作の「ごちそうさん」(22.3%)を下回っていたのだから驚きだ。
今から思えばなんとも意外な数字だが、当時の視聴者にとっては<アイドルの話になるなんて聞いてないよ>という思いだったのだろう。朝ドラの視聴者層は女性が6割、60歳以上が5割となっており、アイドルには興味のない層がメインなのだから無理はないのかもしれない。
「前作の『舞いあがれ!』では多くの視聴者が、ヒロインの舞(福原遥)が旅客機のパイロットとして成長していく物語だと期待していました。ところが航空学校でライセンスを取ったものの、本人はパイロットへの道を諦めて実家の部品工場で働くことに。視聴者からは《ねじ工場の話になるなんて聞いてない》との不満が続出していたものです。それと同じような現象が『あまちゃん』でも発生していたのでした」(前出・テレビ誌ライター)
アイドルの話に舵を切ったことで、メインの視聴者を裏切る形となった「あまちゃん」。ただ「舞いあがれ!」とは異なり、ヒロインの活躍する舞台が変わってからも、その魅力に惹きつけられる視聴者は少なくなかったようだ。