あれ、高いところは苦手だったはずなのでは…。そんな不自然そうなシーンにもちゃんとした意味があるのかもしれない。
7月6日に再放送されたNHK連続テレビ小説「あまちゃん」第82回では、ヒロインのアキ(能年玲奈)と種市先輩(福士蒼汰)がビルの屋上で談笑。その場面に違和感を抱く視聴者も少なくなかったという。
北三陸高校の潜水土木科を卒業し、羽田空港の海中基礎工事に従事すべく上京した種市。だが空港の工事は延期となり、当時建設中だった東京スカイツリーの現場に回されていた。しかし深い海の中は平気でも、高いところは苦手だという種市は、仕事に馴染めず退社。上野にある無頼鮨に転職したのだった。
その種市は今回、アキと二人でビルの屋上に。同ビルはアメ横商店街の一角にあるアメ横センタービルで、そのなかにアメ横女学園の専用劇場である東京EDOシアターが入っているという設定だ。
「アキと北三陸の思い出を語りつつ、線路に面したフェンスを背に腰かけていた種市。しかし彼は仕事を辞めざるを得ないほどの高所恐怖症ですから、ビルの屋上など怖くて居続けることさえできないはずです。それが平気にしていたのは、制作側が種市の設定を忘れてしまっていたのでしょうか」(テレビ誌ライター)
この「あまちゃん」では細部にまで留意して制作されているのが特徴。よもや登場人物の人物設定をうっかり忘れてしまうとは信じがたいところだろう。
ところが種市はこともあろうに、5階建てのアメ横センタービルの屋上で線路側に面したフェンスの前に立ち、遠くを眺めていた。高所恐怖症の要素はすっかり消え去っていたのである。
しかしこの場面で種市が遠くを眺めていた描写には、ちゃんとした意味があるという。それはアキと二人きりでいることに関係しているというのだ。
「種市はこの時、東を向いていました。北三陸の思い出話をしながら、遠い故郷を見ていたわけです。厳密にいうと上野から見た北三陸は北北東の方角ですが、おおざっぱに東と言っても問題ないでしょう。そしてもう一つ大事なのは、アキと一緒にいれば高所恐怖症さえ克服できるという点です」(前出・テレビ誌ライター)
建前上は北三陸に残っているユイ(橋本愛)と遠距離恋愛中の種市だが、実際には身近にいるアキと心を通じ合わせているところ。アキにとって種市は初恋の相手であり、種市も潜水土木科の後輩であるアキを可愛がっているのは明らかだろう。
しかもアキは自分と違い、東京でアイドルの下積みをしながら輝き始めている。それは仕事を辞め、転職したばかりの種市にとってはまぶしい姿のはずだ。そんなアキのそばにいれば、高所恐怖症すら感じないでいられるということではないか。
「果たしてアキと種市は今後、どうなっていくのか。東北人の種市とエセ東北人のアキが心を通い合わせたこの場面は、将来への伏線になっている可能性もあります」(前出・テレビ誌ライター)
あらゆる場面が伏線となり、あらゆる場面が伏線回収となっている「あまちゃん」。設定無視に見える場面にも実は、ちゃんとした理由があるようだ。