パリ五輪に向けて大きく前進だ。開催中の「FIBAバスケットボールワールドカップ2023」にて8月31日、男子日本代表がベネズエラ代表に86対77の大逆転勝利を収め、パリ五輪への切符となるアジア首位の座を死守した。
ベネズエラ戦では代表最年長の比江島慎がチームトップの23点を挙げる大活躍。その比江島はもちろん、今回のワールドカップではNBAサンズの渡邊雄太を筆頭にジョシュ・ホーキンソンや馬場雄大、河村勇輝といった選手たちもファンからの熱い注目を浴びている。
そのなかで「ディープスリー」の代名詞的な存在となっているのが、弱冠22歳の富永啓生。東京五輪では3×3の日本代表チームに選ばれた逸材が、今度はパリ五輪で輝こうとしている。
「富永は高3時のウインターカップで大会得点王に輝くなど、早くから頭角を現してきた存在。その富永は現役NBAプレーヤーの渡邊の後を追うように、高校卒業後に国内の大学や実業団ではなく、アメリカ留学を選びました」(スポーツライター)
最高峰リーグと言えるNCAA(全米大学体育協会)の所属校からも勧誘を受けていた富永だが、NCAAではスポーツ選手に対して厳しい学業基準を定めており、英語力に乏しい留学生がクリアするのは非常に困難。そのため富永はテキサス州のレンジャー・カレッジというコミュニティカレッジ(短大)に進学した。
そのレンジャー・カレッジで卓越した実績を残した富永は、2年目には「NJCAA」(短大リーグ)1部でオールアメリカンのセカンドチームに選出。いわゆる「ベスト5」の2番手チームという評価を受けたのである。
「その実績に加えて、体育会ならではの荒っぽい英語で揉まれた富永は語学力も向上。翌年にはNCAA1部校のネブラスカ大学に編入を果たしました。しかも1チームあたり13人しかいないフルスカラシップ(奨学金)を得ての入部ですから、戦力として正当に評価された形です」(前出・スポーツライター)
ネブラスカ大学の代表チーム「コーンハスカーズ」は1897年創部の古豪。全米の大学が出場を目指すNCAAトーナメントには7回の出場歴を誇る。そのチームで富永は2021-22シーズンに30試合に出場(11試合先発)、続く2022-23シーズンには32試合に出場(14試合先発)し、平均13.1得点をマークした。
出場時間は平均25.1分で、試合(40分)の半分以上でプレー。いまやチームにとって主軸の一人となっているのである。そんなバスケットボールの実力に加えて富永は、別の分野でも優秀さを示しているというのだ。
「今年の3月、富永は『アカデミック・オールビッグテン・オナー』に選ばれました。これはネブラスカ大学が所属するビッグテン・カンファレンスでプレーするすべてのアスリートのなかから、学業が優秀だった者に贈られる賞。14大学の男女アスリート全員を対象に、今季は1000人ほどが受賞しています。これは富永が学業成績でGPA3.0をクリアしたことを示しています」(前出・スポーツライター)
今回の対象は冬季競技で、バスケットボールやレスリング、アイスホッケーや陸上競技(室内)など全10競技が対象。選手総数は数千人に及んでいる。GPA3.0は成績上位の3分の1が該当し、体育会に所属していない一般の学生であっても優秀とみなされる立派な成績だ。
日本人留学生ゆえ、学業における英語のハードルは高い。しかもNCAA1部という高い競技レベルに加えて日本代表としての活動も求められる富永が、アカデミック・オールビッグテン・オナーに選ばれたことは相当な快挙と言えるだろう。
その富永が日本代表選手として活躍する姿は、国内の中高生バスケットボール選手に大いに刺激を与えているはず。アメリカでプレーする渡邊と馬場も含め、「自分たちもアメリカでプレーできるかもしれない」との期待が大いに高まるワールドカップになっているのではないだろうか。