細かいところに目をつぶれば、神回だったのかもしれない。
1月5日放送のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」第66回では、ヒロインの福来スズ子とブルース歌手の茨田りつ子がそれぞれ地方で慰問公演。戦争末期の極限状況で、歌が人々に希望と力を与える様子を描いていた。
りつ子は鹿児島の海軍基地で、特攻隊の若い兵士たちのリクエストに応じて「別れのブルース」を熱唱。命を捨てる覚悟ができたと笑顔を見せる若者たちの姿に、ステージを降りたりつ子はしゃがみ込んで慟哭していた。
一方でスズ子は富山での慰問公演で、戦死した弟のことを思いながら「大空の弟」を披露。夫を戦死で失いながら強がっていた旅館の仲居さんも、スズ子の歌に感動して号泣していた。
「これらの描写を《薄っぺらい》と批判する向きもありますが、多くの視聴者はりつ子とスズ子が歌で人々に勇気と力を与える姿に感動。りつ子が戦地に赴く若き兵士たちを想って慟哭した場面にはもらい泣きする人も少なくありませんでした」(テレビ誌ライター)
12月から物語の舞台が戦時中となり、暗い雰囲気がドラマの全体を覆ったことで視聴率も低迷。それでも制作側は、戦争の悲惨さと歌の力を伝え続けたかったようだ。
それが深みのある人間ドラマになるのか、それとも安っぽい反戦ドラマになるのかは、制作側の覚悟と腕に掛かっているはず。今回は多くの視聴者を泣かせることに成功していたが、その陰には時代考証の甘さに白けたという声も少なくなかったのである。
「スズ子の楽団員や、スズ子の恋人で大学生の愛助(水上恒司)らは、広島に原子爆弾が落とされたことを新聞で知りました。当時の報道では軍部から原子爆弾という言葉の使用を禁じられており、新聞やラジオでは『新型爆弾』と表現。作中の描写も史実に沿っていましたが、問題は記事の内容にあったのです」(前出・テレビ誌ライター)
愛助は記事を読みながら「たった一発で何万人もやられたらしい」とつぶやき、楽団マネージャーの山下(近藤芳正)は「たった一発で広島一帯が壊滅」と、記事を読みあげていた。この描写が史実に反しているのは明らかだという。
というのも広島が壊滅的被害に遭ったことを知った軍部は報道を統制。新型爆弾を落とした米国を責める論調こそ示したものの、空襲被害そのものは「相当の被害を生じたり」と、他の空襲と変わらぬ描写に抑えていたのである。
原爆被害の実情が広く伝わるようになったのは、昭和20年8月15日の終戦以降のこと。各紙の本社や軍部が止めていた詳細な状況が一挙に報道されたからだ。それが今回の作中では、終戦前から甚大な被害を新聞で報じたことになっている。この不自然さに気づいた視聴者も少なくなかったようだ。
「制作側としては空襲の悲惨さなどを直接描かずに、戦時中の世相をなんとか伝えようとしたかったのかもしれません。しかし演出の工夫ならともかく、史実を曲げるのはさすがにいかがなものかと眉をひそめる人も多いもの。全体的に時代考証の甘さが目に付く内容には、物語が早く戦後になってほしいとの声もあがっています」(前出・テレビ誌ライター)
次週予告では、戦争が終わって世の中が一気に変わった様子が示されていた。話の内容が明るくなることで視聴率も回復するのか。視聴者も次週からの展開に期待したいところだろう。